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人材マネジメントと人事データ活用 事例ファイル | #3(AD)

NECが全社で取り組むエンゲージメント向上、確証のある打ち手を導き出したプロセスとは

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 かねてより、組織の多様性向上を課題としてきたという日本電気株式会社(以下、NEC)。その目的である新しい価値を生み出す風土の醸成には、同時に従業員エンゲージメントの向上も欠かせないと判断しました。そして取り組んだ施策は、経験や勘に頼らず、ファクトに基づいた確証のある打ち手へとつながっていったのです。今回はそのプロセスを、同社 人事総務部の山岸真弓氏、中村亮一氏に明かしていただきました。

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レガシーな組織を変革するために掲げたエンゲージメントスコアの向上

――エンゲージメント向上を掲げたのはいつでしょうか。またその理由は?

中村亮一氏(以下、中村) 弊社ではエンゲージメントをスコア化する海外製のサーベイサービスを利用しているのですが、2021年5月に発表した2025年までの中期経営計画にて、そのスコアを50%[1]にまで高めることを掲げました。そして、同年7月頃から本格的なデータ分析を開始し、エンゲージメント向上に関して話を進めてきています。

[1]: スコア50%は概ねグローバル上位25パーセンタイルに該当し、Tier1レベル。(出典:NEC「人材開発・育成」)

山岸真弓氏(以下、山岸) もともとNECでは、2018年に企業文化の抜本的な変革に向け「カルチャー変革本部」を立ち上げて、多様性を取り入れる、中途採用を活性化するなどの様々な新しい取り組みを行ってきました。この流れの中で、「HRデータをどう活用していくか」というテーマが挙がりました。

 そして2020年頃、本格的にHRデータを活用する方針が決まり、人事総務部のPeople Success部門の中にHRアナリティクスという、ピープルアナリティクス専門の部署が立ち上がりました。ちょうど時期を同じくして、先ほど中村が述べたとおり、中期経営計画にエンゲージメントスコアの達成目標が追加されました。

山岸 真弓氏
山岸 真弓(やまぎし まゆみ)氏
日本電気株式会社 人事総務部 ピープルサクセス ダイレクター
2019年にNECへキャリア入社。20代半ばで人事を軸に自身のキャリアを形づくっていく決意をして以来、外資系企業で組織開発やタレントアクイジションなどに従事。2015年にはシンガポールに赴任し、APACのHR担当としてシンガポール、香港、上海、ソウル、シカゴの人事業務すべてを担当。2022年4月より、ピープルサクセスグループへ異動し、Smart Work 2.0のWork Principles リーダーとして従業員体験を高める人事施策の実行に向けて日々試行錯誤中。

――カルチャー変革本部の立ち上げには、どのような背景があったのでしょうか。

山岸 私たちが目指すデジタルトランスフォーメーション(DX)は、カルチャーのトランスフォーメーションと両輪でこそ初めて実現すると考えています。当時、NECが創立120年を迎えるにあたり、今のデジタルの時代に合ったカルチャーの変革が求められていました。例えば、企業には多様性が不可欠になったにもかかわらず、NECには役員陣における男性比率、プロパー社員の割合の高さや過去の慣習など、旧態依然とした点が根強く残っていました。私自身、3年前に外資系企業から転職してきたときに、多くの改善の余地があると感じました。こうした中、前社長の新野(隆氏。現 会長)がこの課題に本腰を入れて取り組むため、カルチャー変革本部を立ち上げました。

 実際、カルチャー変革本部の立ち上げであらゆることが変わりました。スマートワークの導入や社員のエンゲージメント改善、評価制度の見直しをはじめ、多様な人材の雇用にも力を入れるようになっています。2021年度には中途社員を600名超、採用しました。新卒採用が例年500~600名規模ですので、それとほぼ同数です。それだけ中途採用にも力を入れて、会社のカルチャーを変えようと試みています。既存のマインドセットを大きく変革するためにも、とにかく多様な人材を受け入れることが重要と考えています。

 いろいろな取り組みを実施したうちの成果の一つとして、2020年から2021年にかけてエンゲージメントスコアが10%上がりました。この流れで中期経営計画の目標である50%まで高めていきたいと考えています。

中村 亮一氏
中村 亮一(なかむら りょういち)氏
日本電気株式会社 人事総務部 ピープルサクセス HRアナリティクスプロフェッショナル
2004年4月大学卒業後、日立製作所へ入社し、人事総務担当として従事。2017年4月に人事部門内にPeople Analytics専門の部署を立ち上げ、データ分析に携わり、本分野での事業立ち上げ(コンサルティング)を担当する。2018年10月に日立を卒業し、ソフトバンクへ入社。同社人事部門においてHRテック、People Analyticsの社内導入を担当する。HRテックスタートアップ株式会社BtoAを経て、現職。

――エンゲージメントサーベイの対象者や頻度は? 実施に際して配慮していることはありますか。

山岸 以前は、「One NECサーベイ」と呼んでいるエンゲージメントサーベイを内製で実施してきました。しかしながら、カルチャー変革への取り組み以降は、NECグループが真のグローバル企業を目指すために、グローバルベンチマークが可能な海外製のサーベイサービスを利用して、年に1度、国内外のグループ社員約8万人を対象に本格的に調査しています。それとは別に、4半期に1度ずつ、国内のグループ社員約6万人を対象に行うパルスサーベイも組み合わせて実施しています。

 One NECサーベイでは70問ほどの設問を用意しています。また、パルスサーベイは内製で行っているもので、One NECサーベイよりも設問数を絞って、その時々に合わせて設問を追加・変更しながら実施しています。いずれのサーベイも、社員は匿名で回答し、組織単位でのエンゲージメントの度合いを測定しています。また、カルチャー変革の「オープン」という大方針の下、結果を広く社員に公開することで、組織のリーダーはもちろん社員一人ひとりが自律的に改善に向かうための気づきを提供するようにしています。

 サーベイの結果がこのように全社に広く公開されることはなかったため、当初は社員がそれに慣れるための期間がある程度、必要でした。次のフェーズとしては、組織単位ではなく、もう少し「個の意見」を抽出しながらファンクションごとのニーズや解決策を、具体的に見出していくことが重要と考えています。

 ただし、改正個人情報保護法の遵守もありますので、今後どういったコンセプトでサーベイの効き目を高めていくべきか議論している最中です。

サーベイ結果を具体的な打ち手にまで落とし込む

――サーベイを本格的に実施して得たメリットは何でしょうか。

山岸 サーベイによって、NECの現状や課題を明確に見える化できたことが、大きな収穫だと思っています。人事歴が長いと、どうしても感覚で「こういう施策をしたほうがよい」と考えてしまいますが、データを見ながらファクトベースで会話できるようになるのは非常に有効だと思います。

 しかし、可視化する重要性を感じている一方で、データの見せ方や扱い方次第では、物事の解決につながらないケースもあると思います。そもそも、日本全体でデータを扱った経験のある人材が少なく、手法が確立されていない点も課題ですが、扱い方によってデータはいくらでも印象操作できるので、注意しなければならないと考えています。

中村 サーベイなどで得られたデータに対して、まずは主観的な見方をしないことが大切だと思います。そのため、サーベイで得られたデータを見るときには、サーベイサービスの会社が提供してくれた分析結果を先に見るようにしています。これは、自分たちの感覚でサーベイ結果を見てしまうと主観的な解釈を加えて、間違った課題設定をしてしまう懸念があるためです。例えば、自分が主張したいことを軸にデータを確認すると、どうしても部分的に偏った視点で見てしまうものです。偏った見方をしないことは、サーベイを実施する際に特に注意していることといえます。

――サーベイ結果を受け取った後、どのようなアクションを取っているのでしょうか。

中村 中期経営計画で掲げたエンゲージメントスコア50%達成に向けてのマネジメント課題を明らかにするため、サーベイのインパクト分析の結果、課題領域として「個人の裁量権」というものが浮かび上がりました。そこで、この課題を解決するために必要な施策を調べるべく、Code of Values(NECの行動基準)が職場で実行できているか追加調査を実施しました。このサーベイの分析では、どちらかというとトップダウンの結果が可視化されるため、その時々の結果に合わせて別の手法を組み合わせ、課題を深掘りしています。追加調査で得たデータは定量分析(因果分析による構造化・可視化)を行い、そこから気づき・解釈を得ます。その後、定性インタビューを経て具体的な施策へと落とし込みました。

インパクト分析を受けて行った独自プロジェクトのプロセス
インパクト分析を受けて行った独自プロジェクトのプロセス
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 Code of Valueについての追加調査で尋ねたのは、次に示す33項目です。

Code of Valueについての追加調査で尋ねた33項目
Code of Valueについての追加調査で尋ねた33項目
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 因果分析には、NEC独自のAIツールである「causal analysis」を用いました。その分析の結果、個人裁量権の課題にアプローチするためには、心理的安全性が必要であること、さらにその前提としてマネージャーの共感発信が必要となることが分かりました。

causal analyticsによる因果分析で導き出された課題へのアプローチ
causal analyticsによる因果分析で導き出された課題へのアプローチ
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 こうして掘り下げていった分析の結果から得られた、チームのエンゲージメント向上につながるメカニズムが次の図です。マネージャーが共感発信することでチームメンバーに生まれる価値から心理的安全性が高まり、それを土壌として個人裁量権を拡充することによって、社員の積極的な挑戦と期待以上の成果のサイクルが回り、エンゲージメントが向上していく形です。

共感発信からエンゲージメントが向上するまでのメカニズム
共感発信からエンゲージメントが向上するまでのメカニズム
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山岸 ちなみに、毎回causal analysisによるAI分析を行っているわけではありません。インパクト分析で出てくる課題は毎回異なるので、その課題に対してどう深掘りしたらよいか、その都度考えて追求しています。

中村 この分析では、心理的安全性を高めていくために共感発信が必要であると分かったため、最終的にマネージャー向けの研修実施につなげました。インパクト分析の結果から、やみくもに施策を講じるのではなく、より詳細の分析を加えて、施策の優先順位や内容に落とし込むようにしている点が重要です。

山岸 先ほどもお話ししたように、人事歴が長くなるとどうしても「この施策をやればよいのでは」と、感覚で意思決定をしがちです。HRデータを活用することで、なんとなく感覚で決めていた物事の裏付けがとれるのは大きなメリットだと思います。

感覚で行ってきた人事施策からファクトベースの取り組み方へ

――サーベイ後の施策からは、どのような結果が得られましたか。

山岸 正直なところ、まだこれといった結果は出ていません。組織の規模が大きく、様々なファンクションがありますから、単体の施策を打っただけで2万人強の社員がドラスティックに変わるものとは思っていません。

 ただ我々としては、今回のようなファクトが出てきたことに意味があると感じています。マネージャー陣の共感性だけでなく、様々な要素を含めて包括的に変えていくことが必要と分かったことが、一つの結果なのだと捉えています。

――最後に、人事データ活用に関して取り組みたいことなどを教えてください。

山岸 データを扱うプラットフォームを整えたり、社内システムのあちこちに散乱している情報を集めて可視化していったりするなど、データドリブンの経営を行うにはやるべきことが山積みです。

 今後は、人の勘に頼らずにデータドリブンで効率化を図っていくために、より強固なHRチームを形成していきたいですね。そのためには、個々のデータリテラシーを高め、人員も増やして、各施策のオーナー部門と連携して最適な進め方を模索していきたいです。投資家の方からも、HRデータの活用は注目されていると感じていますので、理想高くチャレンジしていきたいと考えています。

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