パーソル総合研究所は、人的資本情報開示に関する調査を実施し、その結果を発表した。同調査は、転職を検討している社会人、および2024年春に就職を予定している学生が、企業のどのような人的資本情報に関心があるかを定量的に把握することにより、経営・人事に資する提言を行うことを目的に実施した。
調査の概要と結果は以下のとおり。
社会人の優秀人材は、「裁量権」「挑戦」「会社のビジョンやパーパスへの共感」を重視する傾向
1年以内の転職を検討している社会人(正社員)4100人に対し、転職先の検討にあたり重視する要素を聞いたところ、最も多く回答が集まったのは「人間関係が良い」(88.3%)、次いで「給料が良い」(87.5%)、「ワークライフバランスを保てる」(85.3%)だった(図表1の赤枠参照)。
また、現在勤めている会社での自己評価を聞く質問項目を設け、「評価が高い」かつ「昇格のスピードが速い」と回答した人を「優秀人材」として分析に用いた。優秀人材と社会人全体の結果を比較したところ、優秀人材のほうが相対的に「裁量権がある」「新しいことに挑戦できる」「会社のビジョンやパーパスに共感できる」「フレックスタイム制など働く時間を選べる」「成長できる」といった要素を重視する傾向が見られた(図表1の黄色囲み数字参照)。
社会人の関心が高い人的資本情報は、「福利厚生」「賃金の公正性」「精神的健康」
内閣官房から8月に発表された「人的資本可視化指針」に開示事項例として示されている19項目を用いて、転職検討中の社会人に関心のある開示項目を聞いた。関心の高かった項目の1位・2位は「福利厚生」(88.6%)、「賃金の公正性」(84.8%)と労働慣行の項目が挙がり、次いで「精神的健康」(79.1%)、「安全」「コンプライアンス/倫理」(いずれも78.4%)となった。また、19項目以外に聞いた「休暇(育児休暇にとどまらず休暇全般)」(91.6%)や「賃金(公正性にとどまらず賃金全般)」(88.8%)も、関心が高かった。
社会人の優秀人材は、人的資本情報開示項目の「価値向上」領域に関心が高い傾向
関心のある開示項目について、優秀人材と社会人全体の回答を比較したところ、優秀人材は相対的に、「リーダーシップ」「サクセッション(後継者プラン)」「採用」「エンゲージメント」「育成」に対する関心が高い傾向が見られた。
また、「人的資本可視化指針」において19項目に対し示されている「価値向上」「リスクマネジメント」の2つの観点から見ると、社会人全体では「リスクマネジメント」領域に関心が高い傾向があるのに対し(図表2の黄色囲み数字参照)、優秀人材は社会人全体に比べ「価値向上」領域に関心が高い傾向が見られた(図表3の黄色囲み数字参照)。
社会人の優秀人材のうち、男性は「リーダーシップ」「サクセッション」「採用」への関心が高く、女性は「差別のなさ」「ダイバーシティ」「福利厚生」への関心が高い傾向
優秀人材が関心を向ける開示項目について、性別による差を確認したところ、相対的に、男性は「リーダーシップ」「サクセッション(後継者プラン)」「採用」に関心が高く、女性は「差別のなさ」「ダイバーシティ」「福利厚生」に関心が高い傾向が見られた。
学生は社会人に比べ、企業の「社会貢献」や「環境への配慮」を重視する傾向
次に、2024年春に就職を予定している学生(大学生・大学院生)500人に、就職先の検討にあたり重視する要素を聞いたところ、上位3つは「人間関係が良い」(89.8%)、「給料が良い」(86.8%)、「ワークライフバランスを保てる」(86.2%)であり、社会人の上位3つと同じ結果となった(図表5の赤枠参照)。
この回答結果について、社会人の結果と比較したところ、学生は「社会貢献に積極的」「環境に配慮している」の回答比率が相対的に高く、ESGのE(Environment:環境)とS(Society:社会)を重視する傾向がうかがえる。また、「成長できる」「人材育成に積極的」「強みや専門性を活かせる」も高い傾向が確認された(図表5の黄色囲み数字参照)。
学生の関心が高い人的資本情報のトップ2は「福利厚生」「賃金の公正性」で社会人と同様
学生に関心のある人的資本情報の開示項目を聞いたところ、関心の高かった項目の1位・2位は「福利厚生」(90.2%)、「賃金の公正性」(85.0%)と、社会人と同じ項目がトップ2として挙がった。3位以降は、「安全」(82.2%)、「精神的健康」(81.8%)、「採用」(80.0%)が続いた。また、19項目以外に聞いた「休暇(育児休暇にとどまらず休暇全般)」(90.0%)や「賃金(公正性にとどまらず賃金全般)」(85.0%)も、社会人の結果と同様、関心が高かった。
男性の学生は「サクセッション」「リーダーシップ」「エンゲージメント」、女性の学生は「ダイバーシティ」「差別のなさ」「育児休暇」への関心が高い
学生が関心を向ける開示項目について、性別による差を確認したところ、相対的に、男性は「リーダーシップ」「サクセッション(後継者プラン)」「エンゲージメント」への関心が高く、女性は「ダイバーシティ」「差別のなさ」「育児休暇」への関心が高かった。
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