働く場所にとらわれない仕事を求めて出産後にLPI-304を取得
結婚を経て、私は2011年に長男を出産した。これをきっかけに、リモート勤務ができる仕事を探すことにした。出産後もエンジニアとして働いていきたい気持ちがあったからだ。
目を付けたのは、働く場所にとらわれないクラウドエンジニアの道である。そこでまず、仮想化技術に関する知識を認定するLPI-304を取得することにした。しかし、LPI-304は当時リリースされた直後で、公式テキストや問題集など、学習のための教材はほとんどなかった。
そのため、自宅に自作PCを用意し、仮想環境を一から構築することにした。『KVM徹底入門 Linuxカーネル仮想化基盤構築ガイド』や『Xen徹底入門 第2版』(いずれも翔泳社刊)といった専門書を読み、とにかく実機で仮想環境を構築。それから、体系的に理解できるようにノートにまとめた。出題範囲などは公式ページで公開されている。範囲に含まれるコマンドは実機で確認した。
とはいえ、乳児を育てながらの資格取得は想像以上に難しい。余裕のあるスケジュールを立てて辛抱強く学習を続けるしかない。苦労はしたが、受験を決意して3か月後、無事LPI-304を取得することができた。
その後、クラウドインテグレータのサーバーワークスに転職することができ、子育てしながらクラウドエンジニアとしてのスタートを切った。
後進を育成する勉強会を開くまでに成長できた
LPI-304はクラウド業界の転職に強いだけではなく、これからの多様な働き方のベースになる資格だと、個人的に感じている。
私はサーバーワークスへの転職後、子供の看病といった事情で同社をいったん辞めることになり、会社員のレールから外れた生き方をすることになった。しかし、それからLPI-Japanの『Linuxシステム管理標準教科書』の執筆プロジェクトへ参画したり、テクニカルライターとして技術雑誌へ寄稿したりといった貴重な経験を得た。同時に、柔軟な働き方を見出すこともできた。
また、LPI-Japanが主催する「LPIC勉強会」(現 LPIC&OSS-DB&HTML5勉強会)において、チューターをボランティア活動でやっている。LPIC勉強会は自習式の勉強会だが、参加者の意欲が強く、質問の内容も思った以上に実践的だ。誰もがつまずくポイントなどを知ることができるし、教えるスキルを身に付ける絶好の機会にもなっている。
さらに、この活動を通じて、自分のスキルアップだけではなく、次の世代のエンジニアを育てていきたいと思うようになった。かつての自分のように、学習方法やエンジニアとしての生き方に悩んでいる人の力になりたくて、現在も自発的に活動をしている。
例えば、「Linux女子部」を主宰し、講師をお招きして勉強会を開催した。「TechGIRL」というイベントの運営に携わり、女性エンジニアが自発的に発表する機会を作るお手伝いもした。仲間と励まし合いながら高みを目指していくほうが、より楽しく学習できるだろう。
LPICはIoTのスキル育成にも役立つ
クラウドエンジニアに転身した今でも、Linuxやオンプレミスの知識はもちろん必要である。加えて求められるのが、仮想化、ストレージ、ネットワーク、セキュリティ、バックアップ、データベース、クラスタリング、構成管理の知識だ。これからはIoTの知識も必要になるだろう。
ITエンジニアとして生きていくためには、やはり日々の情報収集や勉強が欠かせない。その学ぼうとする姿勢を作ってくれたのは、LPICや資格取得の勉強手法だと思う。
IoTのスキルについては、Raspberry PiにLinuxをインストールして動かしてみたことがきっかけで、楽しく始めることができた。きっかけは、長男の大好きなプラレールが壊れ、それを直す約束をしたことだった。長男との約束を果たすため、電子工作と組み合わせてプラレールをIoTで制御できるようにした。その顛末は私の個人ブログ[1]にあるので、興味のある方はぜひご覧いただきたい。
Raspberry Piに限らず、最近では組み込み分野でもLinuxの利用が一般的になっていると聞く。IoTエンジニアのスキル育成でもLPICは十分に役立っていくだろう。
LPI-304や様々なスキルがあったから仕事をつないでいけた
クラウドエンジニアになってから、時間の効率化や成果についてよく考えるようになった。保育園の送迎の関係で、今は7時間の時短勤務をしているが、必要な手順は踏みつつも効率化を常に考えることで、プロジェクトに貢献している。仕事と育児の両立ができるのは、LPIC取得を始めとする、これまでの経験があったからこそだと感じている。
資格取得を目指して勉強する中、「資格なんて意味がない」などと言って、こちらのモチベーションを削ぎ落とそうとする人に遭遇するかもしれない。しかし、私は決してそうではないと思う。
もし、知り合いもコネもない全く新しいフィールドで何かにチャレンジすることになったとき、いったい誰が助けてくれるのだろうか。助けてくれるのは、自身の経験と資格である。だから資格は、ないよりもあったほうが断然よい。私自身も、LPI-304や様々なスキルがあったからこそ、仕事をつないでいけた。自分の人生なのだから、他人が発するノイズを気にする必要は全くない。
以上が私の経験である。LPICはもちろんのこと、ぜひ資格取得にチャレンジしてもらいたい。
注
[1]: Mana Blog Next「母ちゃんがプログラミングでプラレールを操作できるようになったとき」