人事体制の変遷、「何でも屋」から「最適化組織」まで
企業が小規模企業から中堅・大企業に成長する際、一般的に人事組織は次のような変遷をたどります。
1. 「何でも屋」として1人からスタート
人事とは、大きく分けて採用、労務、育成、人事制度(配置や評価基準の決定など)の4つの機能を持ちます。しかし、これらの機能は直接的に売り上げに貢献するわけではないため、企業規模が小さいうちは人事業務の専任者を置くことは現実的でも効果的でもありません。そのため、従業員数が数人の企業では、経営者が代替することがほとんどでしょう。
しかし、十数人を超えたあたりから、人事業務の担当者が置かれはじめます。人事担当者は、採用速度を上げ、採用後の労務的な手続きや月次で発生する給与計算の対応をしつつ、合間の時間でできる限り育成や評価実務を行うといった、いわゆる「何でも屋」的な位置付けとなります。何でも屋ゆえに、採用の意思決定は主に社長やその他の幹部が行い、人事担当者の役割はもっぱら、入社の手続きやエージェントへの連絡・日程調整などにとどまる例が多いようです。
2. 徐々に労務系・採用系の2人体制に
従業員数が数十人を超えて企業の成長が加速すると、さらに採用ニーズが高まります。それと同時に、給与計算や手続きも増えるため、労務系のタスクが増大します。そのため人事体制は、主に採用業務を中心に対応する人と、労務業務を中心に対応する人の2人体制となるケースが多く見られます。
昨今は、HR機能のサービスや社労士を活用して、給与計算や社会保険手続きといった労務タスクの一部を効率化するケースが増えていますが、すべて丸投げすると誤りがあったときに気付けませんし、外注では対応できない業務もあります。自社で労務タスクを一切行わないわけにはいきませんので、やはり労務担当者の設置は必須です。
3. 「採用・育成」の兼任と「労務・評価」の兼任が発生
次に高まるのが育成のニーズです。理由は主に2つあります。
1つ目は、採用数が増えると、オンボーディング施策のニーズが高まるためです。新卒社員を採用する企業ならなおさらでしょう。2つ目は、既存従業員へのリスキリングが求められるようになるためです。従業員数が増えるにしたがって、ハイパフォーマーとローパフォーマーの差が顕著となり、新たな商材の開発・販売を進めるためにも、既存従業員に対する学習の提供が必要になります。
また、個々人のパフォーマンスの差が発生することで、経営層には、それらを可視化して個人の報酬に反映させたいという考えが生まれはじめます。制度がないまま従業員の報酬を上げ下げしてしまうと、従業員からは「好き嫌いで評価されている」「どうがんばればよいのか分からない」といった反応が生まれてしまいます。そのため、評価・報酬制度の導入や運用のニーズも高まります。
このフェーズでは、採用担当者が育成を兼務し、労務の担当者が制度を兼務することが多いようです。前者は、採用実務経験により従業員に顔が利くことに加えて、採用業務を通じて人の能力を見るのに長けていると考えられることから、育成を兼務する傾向が見られます。後者は、個々従業員の報酬決定にあたり、報酬データや評価の元データを抽出・更新するのに長けていると考えられるためです。
4.「採用」「労務」「育成」「評価や配置」でそれぞれ組織化
しかし、「採用と育成」「労務と人事評価」は類似点があっても、あくまでそれぞれ異なる業務です。そこで、採用担当者には採用業務に適性のある人を配置し、育成担当者には育成業務に適性のある人を配置するというように、個々の能力に応じて組織化することで、個々の業務が専門化・効率化されていきます。
100人の壁にぶつかる企業は、主に3~4の体制であることが多いでしょう。
新しいフェーズでは、“横断的な対応”が課題に
1~4の変遷を経て、人事業務を行う組織が最適化された結果、各機能の能力や視点は深まります。しかし一方で、既存業務の効率化と外部環境への対応が各組織・担当者の新しいイシューとなります。組織が専門化したことで、機能横断的な視点が欠けてしまうのです。
人事機能を横断する課題とは、人的資本情報の開示、働き方改革、健康経営、DE&I、タレントマネジメント、オンボーディングなどで、最近特に対処が必要になってきています。これらの課題を、採用担当者や労務担当者だけで解決するのは非常に困難です。
そのため昨今は、経営に寄与して外部環境にうまく対応する「攻めの人事」を実現できる人材が求められています。それは、100人の壁を乗り越えるために、必須のスキルでもあるのです。