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人事労務事件簿 | #52

同意なしの契約更新上限規定の変更による雇止めは認められないと判断(徳島地裁 令和3年10月25日)

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 令和6年4月1日の労働基準法施行規則第5条の改正により、有期労働契約の締結時と更新時には、通算契約期間または更新回数の上限の有無と内容を明示し、かつ更新上限を新設・短縮する場合には事前に説明する必要があると定められました。また、有期雇用が通算5年を超える場合、申し込みにより無期労働契約に転換できる旨を労働者に明示することも必要となりました。しかし、無期労働契約への転換を嫌う企業は、通算5年になる前にいわゆる「雇止め」を図ります。今回紹介する事案はその一例で、裁判所は労働者側の同意がない企業側の更新上限変更は無効と判断しました。

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1. 事件の概要

 本件は、被告(以下「Y社」)との間で契約期間を平成29年4月1日から同30年3月31日とする期間の定めのある労働契約を締結した原告(以下「X」)が、同年4月1日からの契約更新の申し込みをしたにもかかわらず、Y社から拒絶されたこと(以下「本件雇止め」)を受け、XがY社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めた事案です。

(1)当事者等

 Y社は、放送による授業を行うとともに、全国各地の学習センター等で面接による授業等を行うことを目的とする学校法人です。

 X(昭和38年生)は、平成18年3月から、徳島学習センターで時間雇用職員として稼働していた者です。

(2)X・Y社間の労働契約の締結

 Xは、Y社との間で、平成18年3月1日、契約期間を同日から同月31日までとする期間の定めのある労働契約を締結した後、同年4月1日、以下のとおり、期間の定めのある労働契約(以下「当初労働契約」)を締結しました。

  • 期間1年間(平成18年4月1日から同19年3月31日)
  • 就業場所徳島学習センター
  • 賃金時給790円、毎月末日締翌月17日払い
  • 職務内容徳島学習センターにおける図書室・視聴学習室受付等事務

 Xは、Y社との間で、平成18年4月1日に当初労働契約を締結してから、同29年4月1日に本件労働契約を締結するまでの間、毎年、その労働契約の更新時期に、事務長から約5~10分程度、更新の希望の有無等を尋ねられました。

 Xは、通算11回、労働契約を更新し、Y社から辞令および雇入通知書の交付を受けていました。

 雇入通知書には、労働契約の更新に関して、以下のとおりの記載がありました。

平成22年度

  1. 雇用更新の有無(更新する場合があり得る)
  2. 雇用の更新は、次のいずれかにより判断する
    • 雇用期間満了時の業務量・労働者の勤務成績、態度
    • 労働者の能力
    • 学園の経営状況
    • 従事している業務の進捗状況

平成23年度および同24年度

  1. 雇用の更新の有無(更新する場合があり得る)
  2. 雇用の更新は、労働者の勤務成績・態度・能力および業務上の必要性により判断する

平成25年度から同28年度

  1. 雇用の更新の有無(更新する場合があり得る)
  2. 雇用の更新は、労働者の勤務成績・態度・能力および業務上の必要性により判断する
  3. 雇用の更新の回数については、学園期間業務職員および時間雇用職員の再雇用の取り扱いについて定めるところによる

 なお、XとY社との間で、労働契約書は作成していませんでした。

(3)Y社における業務内容・稼働状況とXの担当業務

 Y社は、大別して、「無期雇用職員」と「有期雇用職員」を雇用しており、本部にはいずれの職員も配置し、学習センターには有期雇用職員のみを配置しています。

 徳島学習センターには、平成18年から本件雇止めに至るまでの間、所長1名、事務長1名、期間業務職員4~5名および時間雇用職員2名が配置されていました。

 Xを含む時間雇用職員の主な業務は、図書室における受付・貸出、図書視聴教材の整理など図書室の一般事務でした。

(4)時間雇用職員の再雇用に関する理事会決定等

 Y社の常勤理事会は、平成25年3月ごろ、改正された労契法18条が平成25年4月1日から施行され、同日以後に開始する有期労働契約が通算で5年を超えて反復更新された場合には、労働者の申し込みにより無期労働契約に転換することとなることを踏まえ、期間業務職員、時間雇用職員および特定有期雇用職員の労働契約に関して対応を検討しました。

 その結果、同年3月19日、本件基準を一部改正する本件決定をし、本件上限規定を定めました。

 Y社の常勤理事会は、平成25年3月19日、「期間業務職員及び時間雇用職員の再雇用の取扱いについて」(以下「本件基準」)を一部改正する旨決議(以下「本件決定」)しました。

 改正後の本件基準のポイントは、以下のとおりです。

期間業務職員及び時間雇用職員の再雇用の取扱いについて

  • 期間業務職員は、雇入れの日から起算して2回を限度として雇用を更新できる。ただし、年度途中で雇用された者の最初の雇用の更新は、この回数に含まない。
    ただし、勤務成績が優秀であり、業務の遂行上必要と認められる場合には、前項の回数に加え、2回を限度として雇用を更新することができる。
  • 時間雇用職員は、雇入れの日から起算して4回を限度として雇用を更新することができる。ただし、年度途中で雇用された者の最初の雇用の更新は、この回数に含まない。
  • 学園と締結した2回以上の有期労働契約(期間を定めて締結した労働契約をいう。以下同じ)の通算契約期間(契約期間を通算した期間をいう。以下同じ)は、5年を超えることができない。
  • この決定の施行日の前日に雇用されている者のうち、施行日において再雇用される者の契約期間は、施行日から通算して5年を超えることができない。

(5)労働契約法の改正への対応について

 Y社はその後、平成25年3月に、インターネットのウェブサイト上に、「労働契約法の改正への対応について[事務職員]」と題する説明資料をアップロードし、時間雇用職員の雇用期間に関する次の取り扱いにつき、周知しました。

  1. 通算雇用期間の上限を5年とすること
  2. 時間雇用職員としての採用時に、採用前6ヵ月以内に、学園に雇用されていないことを確認すること
  3. 現在の在職者の雇用期間については、個別に合意を得たうえで上限を設定すること
  4. 雇用上限年齢を設定(明文化)すること

 Y社は、平成25年3月22日ごろ、Xに対し、「時間雇用職員における再雇用等の取扱いの変更について」と題する書面を交付しました。

  1. 時間雇用職員の通算雇用期間の上限を同月1日から5年までとすること
  2. 定年を68歳とすること
  3. 時間雇用職員の再雇用の上限につき、6ヵ月以内に更新した契約も含めて通算すること

 Y社は、上記取り扱いの変更に係る承諾書の提出を求めましたが、Xから同書の提出を受けることはありませんでした。

 そして、Y社は、同年4月1日、Xに対して同年度の雇入通知書を交付しましたが、その際、更新の上限回数が追加されている点を説明しませんでした。

次のページ
(6)不服申し立て

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この記事の著者

坂本 直紀(サカモト ナオキ)

人事コンサルタント、特定社会保険労務士、中小企業診断士、坂本直紀社会保険労務士代表社員。就業規則作成・改訂、賃金制度構築、メンタルヘルス・ハラスメント対策社内研修などを実施し、会社および社員の活力と安心のサポートを理念として、コンサルティングを行う。 ホームページに多数の人事労務管理に関する情報、規定例、...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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