リソースシフトの中のオンボーディングの位置付けを開いてみる
リソースシフトのプロセスは、大きく3つのプロセスで説明できます。まず経営戦略を実現するために必要な人材要件を明確化する必要があります(1)。次に、現状の人材構成やスキルセットを可視化して、理想と現状のギャップを明らかにします(2)。このとき、戦略的視点・財務的視点・業務的視点の3つの視点から明らかにすることが肝要です。
そのうえで、理想と現状のギャップを埋めるべく、採用・異動・オンボーディング・人材育成・キャリア開発などをシームレスに連動させながら、段階的にリソースシフトを進めていきます(3)。
もちろんうまく進めるためには、これらの3つのプロセスが一貫性を持つことが欠かせませんが、それは簡単ではありません。そのため、リソースシフトのプロセスでは、「人材の状態把握や可視化が不十分」「人材の見方がスキル偏重」「シフト対象者の選び方が属人的」「シフト対象者とシフト先のニーズの不一致」などの問題がよく起こります。
「マッチングのみで送り、フォローが不足する」というのは、それらの問題の1つです。しかし、オンボーディング問題はリソースシフトの最終工程でもあり、取り組みの成否を決める最も重要なプロセスでもあります。最終工程という位置付けから後回しにされがちですが、軽視するとすべてを無駄にもしかねない決定的なプロセスともいえるでしょう。
その軽視による悪影響はさまざまな形で現れます。異動者のオンボーディングがうまくいかず、新しい環境や職務に適応できなければ、能力を十分に発揮し、優れた成果を出すことはできないでしょう。キャリア上の成長も止まってしまいます。
その結果、異動者の組織信頼や業務コミットメントが弱まり、エンゲージメントが下がる可能性が高くなります。そして仕事への意欲も下がることで、異動先の部署では組織力の強化を期待した受け入れだったはずが、逆に組織の状態を悪化させる問題に発展しかねません。
このように具体的に考えると、オンボーディング施策の大切さがよく見えてきます。
「オンボーディングを大切にする風土」づくりを目指したい
リソースシフトは単に人を左から右へ異動させるものではなく、「企業の成長戦略と個人の活躍・成長・キャリア形成を同時実現させるプロセス」であり、そのプロセスを成功に導くには、異動者にも充実したオンボーディング施策を提供していくことが重要であることは、ここまで述べてきたとおりです。
しかし、そこに目を向けて取り組んだとしても一過性の取り組みになったり、部署や人の違いによるムラが生じたりしては成功を引き寄せることはできません。「人材を育成することの大事さ」を関わるもの皆が共有し、日常の忙しさや激しい環境変化にさらされる中でも、「オンボーディングを大切にし、新たな仲間がスムーズに立ち上がりイキイキと活躍することを重視する」風土づくりを目指していきましょう。
以上で、全6回の連載を終わります。今後、オンボーディングはますます大事になっていくでしょう。この連載が、オンボーディング施策に注力する際の手助けになることを祈っています。