はじめに
汎用技術(General-Purpose Technology)と呼ばれる概念がある。発明や発見が世界全体の経済に影響を与える可能性のある技術のことである。電気、内燃機関、コンピュータ、インターネットなど、古くは農耕や鉄などが該当し、社会を劇的に変化させる可能性を秘めている。
ディープラーニングも、間違いなく、こうした汎用技術のひとつである。端的に言うと、「深い関数のパラメータをデータから推定できるようになった」ということであるが、それが画像認識や音声認識をはじめさまざまな領域で大きなイノベーションを生みつつある。また、このことが人間(あるいは動物)の知能の根本原理として使われていることもまず間違いない。 ディープラーニングの元になる考え方は、古くから研究されていたものであり、日本でも、甘利俊一先生や福島邦彦先生などが1960年代、1970年代からこの領域を切り開いてきた。しかし、それが現実に可能になったのは、今日、データが増え、そして計算機の性能が向上したからである。
ディープラーニングが、数十年に一度の汎用技術のひとつなのだとしたら、やらないといけないことはたくさんある。事業の創出、新しい産業の促進、諸制度の整備、人材の育成、教育の充実。10年後、20年後からみたときに、やるべきことをやるべきタイミングでやっておきたい。インターネットという汎用技術では日本は後塵を拝したが、ディープラーニングではそうなりたくない。こうした想いから、日本ディープラーニング協会は設立された。そして、その初期の重要なミッションは、人材の育成であり、誰もが学べるような仕組みの整備である。
本書は、ディープラーニングとは何か、その概観と動向、それをビジネスに活かすにはどうすれば良いかなどが書かれている。本書が、ディープラーニングを志す人にとって、知識を取り入れ、実践に活かすための役に立てば幸いである。そして、ぜひディープラーニングの試験の勉強に活かしてほしい。ひとりひとりの努力が集まって、日本全体に、ディープラーニングの活用の輪が広がり、大きな産業が誕生することを期待している。
一般社団法人 日本ディープラーニング協会 代表理事 松尾 豊
試験の概要
■JDLA試験とは
ディープラーニングに関する知識を有し、事業活用する人材(ジェネラリスト=G検定)と、ディープラーニングを実装する人材(エンジニア=E資格)の育成を目指すために設けられた検定試験です。
各々に必要な知識やスキルセットを定義し、資格試験を行うとともに、協会が認定した事業者がトレーニングを提供します。
本書は、JDLA試験のうちG検定(ジェネラリスト)を受験する方に向けた対策テキストです。
■G検定とは
G検定の概要は次の通りです。
内容 | ディープラーニングを事業に活かすための知識を有しているかを検定する |
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受験資格 | 制限なし |
試験時間 | 120分 |
試験形式 | 知識問題(多肢選択式)、オンライン実施(自宅受験) |
出題問題 | シラバスより出題(推薦図書あり) |
試験時期 | 年2~3回ほど実施予定(詳細はWebページ参照) |
試験の申込方法 | Webページ参照 |
■シラバス
G検定のシラバス(JDLA Deep Learning for GENERAL 2018 #2)は次の通りです。なお、受験する際には最新のシラバスを確認してください。
人工知能(AI)とは(人工知能の定義)
人工知能をめぐる動向
- 探索・推論、知識表現、機械学習、深層学習
人工知能分野の問題
- トイプロブレム、フレーム問題、弱いAI、強いAI、身体性、シンボルグラウンディング問題、特徴量設計、チューリングテスト、シンギュラリティ
機械学習の具体的手法
- 代表的な手法、データの扱い、応用
ディープラーニングの概要
- ニューラルネットワークとディープラーニング、既存のニューラルネットワークにおける問題、ディープラーニングのアプローチ、CPU と GPU
- ディープラーニングにおけるデータ量
ディープラーニングの手法
- 活性化関数、学習率の最適化、更なるテクニック、CNN、RNN
- 深層強化学習、深層生成モデル
ディープラーニングの研究分野
- 画像認識、自然言語処理、音声処理、ロボティクス (強化学習)、マルチモーダル
ディープラーニングの応用に向けて
- 産業への応用、法律、倫理、現行の議論
日本ディープラーニング協会(JDLA)とは
ディープラーニングに関する資格試験を運営している日本ディープラーニング協会(JDLA)は、ディープラーニング技術の活用による日本の産業競争力の向上を目指すために、松尾豊(東京大学特任准教授)を理事長として、2017年6月設立されました。
ディープラーニングを事業の核とする企業およびディープラーニングに関わる研究や人材育成に注力している有識者が中心となり、産業活用促進、人材育成、公的機関や産業への提言、国際連携、社会との対話など、産業の健全な発展のために必要な活動を行っています。