新田 章太(にった しょうた)氏
株式会社ギブリー 取締役 兼 Trackプロダクトオーナー
学生インターンシップ時代に「エンジニア」領域に特化した支援事業を株式会社ギブリーにて立ち上げ、入社。その後プログラミング学習・試験ツール「track」等のサービスを立ち上げた。また、日本最大級の学生ハックイベントJPHACKS組織委員会幹事を務め、次世代のイノベーター発掘・支援にも取り組んでいる。
DX人材育成に向けた新人向け一斉研修の課題とは
経済産業省が公表した「DXリテラシー標準」によると、DXで活用される技術には、「AI」「クラウド」「ハードウェア・ソフトウェア」「ネットワーク」が挙げられている。さらに、DX人材には、技術だけでなく“新たな価値を生み出す基礎としてのマインド・スタンス”が求められるとして、具体的には「顧客・ユーザーへの共感」「常識にとらわれない発想」「反復的なアプローチ」「変化への適応」「コラボレーション」「柔軟な意思決定」「事実に基づく判断」という要素が提示されている。
これを受け、新田氏は「専門性の高い新入社員研修を幅広く行うには、技術面とマインド・スタンス面のそれぞれにおいて、次のような課題がある」と指摘した。
まず技術面の課題とは、「スキル差への対応」が求められる点である。例えば、新入社員の一斉研修でテクニカルスキルの習得を目指す場合、学生時代の経験の有無や程度によって、各人の間で大きなスキル差が開いていることが考えられる。
それにもかかわらず、一律のカリキュラムを提供してしまうと、経験者でスキルが高い人にとっては「分かりきったことばかり教えられて、退屈」「早く進めてほしいのに、進度が遅すぎる」といった不満が生じることは想像に難くない。逆に、未経験でスキルが低い人にとっては、「講義のスピードが速すぎて、ついていくのが大変」「十分に理解しきれていない状態で、求められる基準まで到達できるのか、不安」などの感情が芽生えるのは、当然だろう。
このようなケースでは、「講義の難易度を、両者の中間に合わせるしかない」と考えてしまいがちだが、はたして本当にそれは正しいのだろうか。経験者でスキルが高い人に「初級講座」や「初級演習」を受講させるのは意味がないし、未経験でスキルが低い人に「上級講座」や「上級研修」を受けさせてもtoo muchである。これでは効果が半減するばかりか、余計なコストが肥大化することになってしまうのだ。
他方、マインド・スタンス面の課題については、どうだろうか。新田氏は複数の調査結果を用いながら、「海外に比べて日本企業は人材投資を行わず、個人としても社外学習や自己啓発を行っていない」と解説。さらには、「配属後に実践する環境もないため、目的がなく継続につながらない」あるいは「研修でのインプットだけで終わってしまう」といった実態があると強調した上で、「自立自走するマインドを醸成しなければならないことが大きな課題だ」と訴えた。
このような課題に立ち向かい、自立自走型のDX人材を育成するには、どうすればよいのか。3つのポイントについて、事例とともに、次に詳しく見ていこう。
スキルを可視化すれば、習熟度合いに応じた打ち手が見えてくる
1. スキル階層別研修によるデジタルスキルの向上
ギブリーが提供するDX人材の採用・育成・評価のためのHRプラットフォーム「Track」には、オンラインでスキルのアセスメントができる機能が備わっている。このアセスメントを入社前(研修実施前)、研修期間中、研修終了後の3回行うことで、スキル差を可視化し、一人ひとりのスキルに応じたプログラムを提供できるのだ。
ここで重要なのは、HTML・CSS・JavaScript・Javaなどのテクニカルスキルだけでなく、自立自走するために必要なヒューマンスキル(対人関係能力など)やコンセプチュアルスキル(課題発見能力・論理的解決力など)も合わせて測ることができる点だ。例えば、自立自走する力が弱い研修生は、自ら問いを立てる能力が欠けている。そこで、長文の設問を読ませ、それに対する質問を考えさせるような問題を提示して、非テクニカルスキルの高低を計測する。
なお、テクニカルスキルを測る問題では、選択式のクイズに加え、実際に何らかのプログラミング言語を用いたコーディングをさせる問題もあり、実践でどこまで対応できるのか、真の技術力を事前に把握できるようになっている。
新田氏は、テクニカルスキルのスコアと非テクニカルスキルのスコアをマッピングした散布図を示しながら、「おもしろいことに、テクニカルスキルと非テクニカルスキルの間に相関関係はないと分かっている。この散布図を4分割した上で、それぞれに応じた研修設計を行うことが有効だ」と説き、以下の4つにまとめた。
- テクニカルスコア【高】×非テクニカルスコア【高】=ハイスペック層
- ポテンシャル層に教えることで、自身の技術力に磨きをかけながら、チーム全体で課題解決に挑戦させるのが効果的。
- テクニカルスコア【低】×非テクニカルスコア【高】=ポテンシャル層
- ハイスペック層とのペアワークなどを通じて、自らどんどんスキルアップを図れる状態にしていく。
- テクニカルスコア【低】×非テクニカルスコア【低】=フォローアップ層
- 最も入念に、補講やフォローを行っていくべき対象。
- テクニカルスコア【高】×非テクニカルスコア【低】=スペシャリスト層
- より専門性を高められるオプションのカリキュラムを提供することで、さらにテクニカルスコアを上げていく。
実際に、このスキル階層別研修を行っているのがNTTデータである。NTTデータでは1200名の文理入り混じった新人研修を行う必要があるが、スキルの差が激しく、満足のいく習熟度が得られていないという課題があった。そこで、ギブリーのスキルチェックに基づくスキル階層別研修に切り替えたところ、全体の習熟度が大きく上昇する結果となったという。同時に、約20名分の講師・オペレーターコストの削減につながるという効果も得られた。
自立自走からビジネス創造へとつなげるには
2. 自立自走マインドの形成を促すアクティブラーニング
「専門的な領域の理解を求められるだけでなく、現場社員の教育工数をそれほどかけられない配属後研修では、新入社員が“自ら魚を釣ることのできる”自立自走マインドが求められる」と語る新田氏。その具体的な取り組みとして、5W1Hで論理的に状況整理を行い、適切な質問を作るグループワークを行った後、「ジグソー法」というアクティブラーニングの仕組みを約500名のシステムエンジニアの研修において全面導入したF社の事例を紹介した。
ジグソー法では、研修生をいくつかのグループに分け、各グループで同じ資料を読み、そこに書かれた内容や意味を話し合いながら、グループの中で理解を深めるエキスパート活動を行う。その後、それぞれ違うテーマを学んだメンバーを集めてグループを組み直し、互いの知見を教え合う。最後には、各人の知恵を結集しなければ解けない課題に取り組む。
F社では、これらの研修が進むにつれ、自立自走力が高まり、メンターへの質問数が減少傾向となる成果が得られた。また、「学びの体質」「自己解決力」「周囲との交流」に関して、研修前後で自己評価を行なった結果、すべての項目において点数が向上。自立自走力が高まったことから、サブ講師のコストを30%削減することにつながった。
3. アジャイルスクラム研修による顧客志向の醸成
これまで技術力、自立自走力を上げる研修について見てきたが、最後に新田氏が紹介したのは、セゾン情報システムズによるアジャイルスクラム研修の事例である。セゾン情報システムズでは、もともとギブリーのプログラミングやソフトウェア開発に関する3ヵ月間の基礎研修を採用していた。
しかし、「研修を通じてスキルを身に付けるだけではなく、顧客志向を育み、真のDX人材を育成したい」「研修で終わらせずに、実務へとつなげていきたい」といった要望が生まれてきたことから、4年前に研修内容を大幅に変更した。それを示したのが次図である。
具体的には、技術研修を1.5ヵ月に短縮し、残りの期間を企画から開発までを行う実践型ビジネス研修に充てた。そこではオンラインホワイトボード「miro」を活用しながら、「顧客をペルソナ化してみよう」「ペルソナの共感マップを作成しよう」といったデザイン思考やアジャイルスクラムに関するワークショップを行ったほか、身近なテーマにフォーカスした課題発見&解決に取り組んだ。
結果、研修で作成した提案が成果発表会で高い評価を受け、実際にスマートフォンアプリ「Homer」としてリリースされた。また、研修実施前後で行ったアンケートで、「価値観/行動指針に好感が持てる」「理念やビジョンに共感できる」といった項目が大幅に向上したことから、組織に対するロイヤルティの向上につながったことも明らかとなった。
このようにスキル診断テストを活用して、育成プランの“設計”から、研修・学習の“運営”、そして振り返りの“効果測定”まで、現場が喜ぶエンジニア研修を一気通貫で提供してくれるギブリーのTrack。「スキルの可視化を軸に、DX人材育成に必要な学びの環境を構築していきましょう」とメッセージを残し、新田氏は講演を締めくくった。
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