人的資本経営の新しい潮流と法令政策の変化
人的資本経営が世界的な潮流となる中、法令政策は単なる「ルール」ではなく、働き方の課題を解決し、人材戦略を遂行するための「有用なツール」として捉える必要があります。
2021年頃までの働き方改革の時期の法改正は、労働時間の上限規制のような過重労働を抑えるためのルールが中心でした。しかし現在は、多様な働き方を積極的に支援し、その実現を後押しする政策へと性質が変化しています。単なる最低基準の遵守ではなく、「どういう状態を目指すか」という戦略的視点が不可欠になっています。
この変化は、人的資本経営の深化と密接に関連しています。多様な人材が各自の強みを発揮し、柔軟な働き方を通じて高いパフォーマンスを実現できる組織づくりが、競争力の源泉となる時代が到来しているのです。
人的資本経営とは、従業員を企業の成長を支える「資本」と位置付け、そのスキル、健康、モチベーションを経営戦略に活かすアプローチです。現代の労働市場では、働き手の価値観が大きく変化しています。給与や安定性だけでなく、柔軟な働き方やキャリア成長の機会を重視する人が増えています。
また、少子高齢化による労働力不足が深刻化する中、企業は育児中や介護中の人材、高齢者、フリーランスなど、多様な人材を活用せざるを得ません。人的資本経営は多様な働き方を前提に成り立つものです。そして、2025年の法改正は、それを具体化するきっかけを提供しているといえます。
育児・介護関連法制に見る戦略的活用の具体例
2025年の法改正の中で、特に注目すべきは育児・介護休業法の改正です。この改正は、従来の3歳以下の子供を持つ労働者への支援から、就学期までを視野に入れた包括的な両立支援へと範囲を大きく拡大しています。10月から施行される柔軟な働き方の選択制措置では、企業は育児中の従業員に対して、時差出勤、テレワーク、保育施設の設置運営、新たな休暇の付与、短時間勤務制度などから2つ以上の選択肢を提供することが求められます。
さらに重要なのは、この制度の運用方法です。企業は従業員との個別面談を通じて意向を確認し、適切な選択肢を提供する必要があります。また、制度の設計には労働組合や従業員代表の意見聴取が必要とされ、就業規則への記載も求められます。これらの要件は、一見すると負担に感じられるかもしれません。しかし、これを従業員のエンゲージメント向上や、働きやすい職場づくりの機会として捉え直すことで、採用競争力の強化や人材定着率の向上につなげられます。
さまざまなライフステージの従業員が継続して働ける環境は、組織に多様な視点をもたらし、イノベーションの源泉となります。法定以上の両立支援策を実施することで、「働きやすい企業」としての評判を確立し、採用市場での競争優位性を獲得できるでしょう。この改正を「コンプライアンスコスト」ではなく「人材戦略投資」と捉えることが、持続的な企業成長への鍵となるのではないでしょうか。