育児・介護休業法改正の本質——単なる「休む制度」から「働き方の多様化」へ
2025年の育児・介護休業法改正、特に10月施行部分は、従来の「休業」中心の支援から、「働きながら育児・介護と両立する」ための支援へと大きく舵を切るものです。筆者は多くのHR関連のパートナー企業などと情報発信を行い、人事的対応についての情報を多数把握していますが、企業によって本法令への対応の質が大きく違っており、雇用環境整備の決定的な差になっていくことが明らかなように感じます。
特に、育児・介護休業法の10月改正のような多面的な整備を必要とする法制度は、ダイバーシティ戦略・人材戦略を大きく推進するきっかけとなるもので、「ルールとして守る」という考え方では実現自体が困難です。そのため、人的資本経営的な価値創造ストーリーを上位概念として、多様な働き方やキャリアの持続性をどう実現するかという、人材戦略を推進するうえでのキーファクターを本質的に理解できていることが極めて重要であると思います。

改正の中心となる「選択的措置」制度は、これまでの法令では対象とされていなかった3歳から小学校就学前までの子を持つ労働者に対する支援を新たに義務付けるものです。企業は、始業・終業時刻の変更(時差出勤など)、テレワークの実施、保育施設の設置運営、育児のための休暇の付与、短時間勤務制度という5つの措置から、少なくとも2つの選択肢を労働者に提示し、労働者がそのうちの1つ以上を実際に利用できる状態を整えなければなりません。
また、この改正では「配慮義務」も強化されています。企業は対象となる労働者との個別面談を通じて、その心身の状況や家庭環境に関する要望を聴取し、職業生活と家庭生活の両立に関する支障の改善について適切な対応を検討することが求められます。この面談は、妊娠・出産等の申し出時と子どもが1歳11ヵ月から2歳11ヵ月の期間内の2回実施することが法律で定められています。
この法改正の本質は、「休む権利を保障する」という従来の発想から、「多様な働き方を実現する」という新たな発想への転換を企業に促すものです。子育て期の労働者を一律に「休業」という形でしか支援できなかった従来の枠組みから脱却し、1人ひとりの状況に応じて柔軟に働き続けられる環境の整備を企業に求めているのです。
経営者や人事部門は、これを単なる法的義務と捉えるのではなく、多様な人材がそれぞれの強みを発揮できる組織づくりの好機と捉えるべきでしょう。なぜなら、この法改正が目指す方向性は、まさに人的資本経営が目指す「1人ひとりの多様性を尊重し、能力を最大限に引き出す」という目標と一致するからです。