キャリアイノベーションプログラムが社員自律成長を加速
野澤友宏氏(以下、野澤) この度は「日経リスキリングアワード2024」で最優秀賞の受賞、おめでとうございます。その席で御社の取り組みを拝聴して「面白い」と思い、今回お話を伺う機会を頂戴しました。まずは、おふたりの役割についてお聞かせいただけますでしょうか。
広瀬智氏(以下、広瀬) 私は現在、ソフトウェア人材を中心としたキャリア開発支援の仕組みである「キャリアイノベーションプログラム」の構築と現場への展開を統括する立場にあります。2020年7月に「ソフトキャリア支援室」として5人でスタートした組織が、今では30人規模にまで成長しています。
増子敬氏(以下、増子) 私は主に教育関係を担当しています。特に「ハードウェア人材からソフトウェア人材へのリスキリングプログラム」の運営を中心に取り組んでいます。
野澤 キャリアイノベーションプログラムの内容について教えていただけますか。
広瀬 キャリアイノベーションプログラムは、大きく5つの柱と人材情報DX基盤から構成されています。
まず1つ目の柱が「SOMRIE[1]認定制度」で、スキルの見える化を行います。この制度は17の専門性を定義し、それぞれを1から7段階で評価しています。**社員が自分の現在地を把握し、目指すべき方向性を明確にする仕組みです。
注
[1]: 「洗練された(Sophisticated)技術の方向性を指し示す(Outline)師匠(Master)として、革新的(Revolutionary)で感銘を与える(Impressive)仕事を情熱的(Enthusiasm)に進める」という意味が込められている。
野澤 認定のプロセスはどのようになっていますか。
広瀬 SOMRIE認定制度では、能力(ケイパビリティ)と役割(ジョブロール)の2つの軸で評価を行っています。
たとえば、「セキュリティエンジニア」という役割を担うためには、「セキュリティスペシャリスト」と「ソフトエンジニア」という2つの能力が求められます。このように役割に必要な能力を明確にすることにより、社員は自身のスキルと目指す役割とのギャップを把握しやすくなります。さらにレベル4以上の認定については、正式なアセスメントによる評価を実施しています。
2つ目の柱が「リカレントプログラム」です。認定制度で見えてきた能力のギャップを、研修を通じて埋めていきます。これには外部研修や社内研修を活用し、社員が必要なスキルを体系的に習得できるよう支援しています。
3つ目の柱が「キャリアプランデスク」です。「10年後のあなたを描いてください」と言われても、ほとんどの人はすぐには答えられません。従来は上司を見てキャリアを形成していくことが主流でしたが、技術の多様化が進む中でそれだけでは難しい。そこでSOMRIE認定を受けた専門家などが、キャリアプランの策定を支援します。
4つ目の柱である「アサインプロセス」では、学んだスキルを実践できる「場」を提供します。
野澤 私たちが運営する「ライフシフトプラットフォーム」でも、スキル習得だけでなく、それを発揮する場として「出番」という言葉を大事にしていますが、学んだことを実践する場があることは非常に重要ですね。
広瀬 おっしゃるとおりです。そのために5つ目の柱として「現場のOJT制度(バディ制度)」を整えています。たとえば、レベル4のSOMRIE認定者がレベル3の社員を指導する形で、実践の場を通じてスキルアップを図ります。これらの活動から得られる情報は、すべて「人材情報DX基盤」に集約されます。経営層は人材の現状把握や課題抽出に、社員は「こんな人材になりたい」と思ったときのロールモデル検索に活用できます。
野澤 すばらしいですね。とはいえ、このような仕組みを運用する中で、課題に直面することもあると思います。どのように克服されてきたのでしょうか。
広瀬 一番の課題は、高負荷な開発と育成を両立させることでした。多くの管理職が「仕組みには賛同するが、今この人材を動かすのは難しい」と考え、スムーズに進まないケースがありました。これを解決するため、トップダウンでの方針を明確化し、2〜3年先を見据えた中長期的な異動計画を立てるようにしました。
野澤 中長期的な視点で計画を立てることで、現場の理解も得やすくなるわけですね。全体を通して、単なるスキル開発ではなく、キャリア全体を支援する包括的なプログラムという印象を受けました。