1. 事件の概要
本件は、被告(以下「Y社」)の従業員であった原告(以下「X」)が、平成26年7月2日から平成28年8月31日まで時間外労働等を行ったと主張して、労働契約に基づいて、Y社に対し、割増賃金等を求めた事案です。
今回はさまざまな争点の中から、変形労働時間について取り上げます。
(1)当事者
Xは、Y社の従業員であった者であり、薬品の登録販売者の資格を有していました。
Y社は、日用雑貨、化粧雑貨、衣料品、テープ用品、スポーツ用品、食料品、文房具、日曜大工用品、ペット用品、カー用品、家庭園芸用品、家電製品、薬品、酒類、灯油などの販売を目的とする株式会社であり、店舗である「C」を経営しています。
Y社の資本金は33億6945万円であり、平成28年3月31日当時の社員数は1099名、パートタイム従業員数5588名でした。
(2)雇用関係
Xは、Y社との間で、平成23年8月1日、労働契約を締結しました。
Xは、平成25年6月1日、正社員になりました。
(3)Y社の就業規則
Y社の就業規則45条では、次のとおり定めていました。
- 1項毎月1日を起算日とする1ヵ月単位の変形労働時間制とし、所定労働時間は1ヵ月を平均して1週間40時間とします。
-
2項前項の規定による所定労働日、所定労働日ごとの始業および終業時間は、事前に作成する稼働(シフト)計画表により通知します。
ただし、1日の上限時間を16.5時間、週の上限時間を82.5時間とします。 - 3項始業・終業の時刻および休憩時間は、基本シフトを次のとおりとします。
-
1)本部
始業9時00分 終業18時00分 休憩60分 -
2)店舗
①始業8時00分 終業17時00分 休憩60分
②始業9時00分 終業18時00分 休憩60分
③始業10時00分 終業19時00分 休憩60分
④始業13時00分 終業22時00分 休憩60分
ただし、稼働計画表により、業務の繁閑に合わせて、基本シフトを変更します。
その場合、事前に作成する稼働計画表により各社員に対して通知します。
(4)稼働計画表による労働時間の設定等
各店舗の店長は、店舗の全従業員分について、前月末頃、翌月分の稼働計画表を掲示していました。
同計画表には、当月の各日における出勤日と公休日の区別、出勤日について出社時間、退社時間、休憩時間が具体的に記載されていました。
これにより設定された労働時間の合計は、1ヵ月の所定労働時間(1ヵ月の暦日数が31日の場合は177時間、30日の場合は171.25時間、29日の場合は165.5時間、28日の場合は160時間)に、あらかじめ30時間が加算されたもの(1ヵ月の暦日数が31日の場合は207時間、30日の場合は201.25時間、29日の場合は195.5時間、28日の場合は190時間)でした。
(5)Y社の就業規則
①所定労働時間
X以外に薬品の登録販売者が出勤する場合(週3日程度)
- 午前7時から午後5時まで(10時間)
- 午後1時から午後10時まで(9時間)
- 上記a、bともに、休憩時間は1時間
X以外に薬品の登録販売者が出勤しない場合(週2日程度)
- X以外の正社員が出勤しない場合:午前7時から午後10時まで(15時間)
- X以外に登録販売者ではない正社員が出勤する場合:午前9時から午後10時まで(13時間)
- 上記a、bともに、休憩時間は2時間
②休日
月に8日から9日程度であり、店長が決めるシフトによります。
③賃金締日、支払日
基本給は、毎月末日締め、当月25日払いです。一方、諸手当は、毎月末日締め、翌月25日払いです。
(6)Y社での労働時間の管理方法
Y社では、社員およびパートタイム従業員が、店舗に設置された共有パソコンの「Aシステム」に自分のIDでログインし、勤務時間管理のページに入ります。ページ内の「出社」「退社」「休憩開始」「休憩終了」のボタンを押して打刻することで、労働時間管理が行われていました。
そして、各従業員が打刻した勤務時間は、店長が後で修正することができました。
(7)Xの退職
Xは、平成28年10月2日、Y社を退職しました。
(8)未払割増賃金の支払い
Y社は、Xに対し、平成28年11月25日、未払割増賃金として3473円を支払いました。