1. 事件の概要
本件は、被告(以下「Y社」)に雇用されていた原告(以下「X」)が、Y社がXに対して行った平成30年5月9日付解雇(以下「本件解雇」)が権利濫用に当たり、男女雇用機会均等法9条4項に違反することから無効と主張し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認などを求めました。
(1)当事者
Y社は、2ヵ所の認可保育所および障害者支援施設などを経営する社会福祉法人です。Y社が経営するA保育園(以下「本件保育園」) は、平成27年4月1日に神奈川県知事の認可を得て、認可保育所として事業を開始しました。
本件保育園は、神奈川県厚木市に所在し、定員は79名です。
Xは、平成24年5月、本件保育園にパート保育士として入職し、同年12月1日、常勤補助職員としてY社に雇用後、平成25年春に正規登用試験に合格して正規職員に登用されました。
(2)Xの勤務状況
①XのB園長に対する言動等
Xは、平成26年4月頃、B園長が和太鼓を購入して、講師を呼んで園児に教えると言い出したのに対し、「H保育園のようにしたいのですか」と尋ねました。B園長は、そのようなことは考えていない旨を伝えました。
さらに、Xは、平成27年7月頃、年長児のお楽しみ会について、事前の協議もなく、今まで未使用の施設で実施することを伝えられたため、B園長に事前の協議が欲しかった旨を伝えました。
②職員現況等調査票の回答
平成27年9月頃、保育園において、職員現況等調査票による調査が行われ、Xを含む本件保育園の保育士が回答しました。
その際、D保育士は、C主任が若い職員に対しての指導が厳しいこと、それに対するB園長の認識や今後の対応を問う内容の記載をしました。
F保育士は、C主任の若い保育士に対する指導が厳しすぎるのが問題である旨の記載をしました。
なお、X、D保育士およびF保育士は、職員現況等調査の記載に当たり、事前に相談をしたり、内容をすり合わせることはありませんでした。
そして、Y社理事長は、B園長に対し、同調査において、B園長やC主任に対して意見が出ていることを口頭で伝えました。
また、Y社理事長は、B園長に対し、それぞれの保育士が保育観を持っているので、少し自由にやらせたほうがよい旨を伝え、B園長は、これ以降、Xに対し、言動等に対する細かな注意・指導を行わなくなりました。
③保育過程、保育方針について
Xが、平成28年5月の職員会議において、「園の基盤が分かりづらい。クラスとしてどのようにしたらよいのか」という趣旨の質問をしました。
同年6月の職員会議で、B園長が、全体の保育課程は年度初めに出しているので、それに沿って各クラスで進めるように回答したところ、D保育士が、前に勤めていた保育園における保育指針の読み解きの書類を出し、他の職員に提示しました。
平成28年8月頃のミーティングにおいて、保育方針について討論を行ったところ、Xを含むXグループとされる保育士からB園長の意向に対する異論が出されました。
G保育士がB園長に対し、何も変わっていない旨の発言をし、B園長は途中で離席してしまいました。
④Xの第1子出産に伴う産前産後休業、育児休業等
Xは、平成28年11月に行われた翌年度の希望クラス担任の意向調査において、「退職します」と記入しました。
しかし、面談等による意向の確認が行われることはありませんでした。
Xは、平成28年秋頃に妊娠が判明しましたが、B園長およびY社に報告できずにいました。
平成29年2月に行われた生活発表会において、B園長がXの妊娠に気づいて確認したことから、B園長に対して妊娠していることを報告しました。
また、Xは、生活発表会の翌週、Y社に対し、退職せずに産休を取得したい旨の意向を伝えました。