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インタビュー《人的資本経営》| 日本企業の現状

1000の統合報告書・有報から見えてきた人的資本経営・開示の課題、参考にすべき3社とは

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 2023年は人的資本開示元年とされ、上場企業各社から人的資本の情報開示が行われた。しかし、積極的かつ戦略的な情報公開を行っている企業は、現時点で約4割ほどにとどまっているという。この背景にはどのような要因があるのか。本稿では、これまで数多くの統合報告書や有価証券報告書を通じ検証・分析に取り組む株式会社リクルートマネジメントソリューションズの白井邦博氏に、人的資本開示の現状やそこから見える進展状況、さらに人的資本開示における「ストーリー」の構築について伺った。

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成功事例に見る人的資本開示の実態

——白井さんは、これまで統合報告書や有価証券報告書の人的資本に関する記述をどれくらいお読みになったのでしょうか。また、その印象をお聞かせください。

 まず、弊社プロジェクト内で2022年度の統合報告書250件と有価証券報告書700件ほどに目を通し、現在は2023年度の統合報告書を読み進めています。個人としては、2023年度の統合報告書100件程度に目を通しました。

 全体的な傾向として、大きく2つの特徴が見受けられます。1つ目は、戦略的な情報開示の増加です。2022年度の統合報告書では、自社の人的資本の重要性やそれに基づく施策、定量情報を「いったん、すべて出しておこう」とする企業が多かったのに対し、2023年度は重要な情報を峻別しながら開示している企業が増えています。

 具体的には、平均勤続年数や離職率、障害者雇用率、介護休暇などの情報の掲載率は減少している一方で、人材育成に関する投資額や時間、経営リーダーの候補者数、女性の活躍、ダイバーシティ、働き方の多様性に関する情報、エンゲージメントスコアの開示が増えていますね。

 2つ目は、企業理念や経営戦略の実現に向けた「ストーリー」が明確になってきていることです。自社の理念やパーパスを起点に、自社の“ありたい状態”を明確にして、その実現に必要な人材と、その人材を育成するための具体的な人事課題を整理し、全体像を1枚の絵として示している企業が著しく増えています。これは、単に「人的資本が重要」と説くだけでなく、企業の戦略や理念を実現するために、人的資本のどの側面が重要であり、どのような課題があるのかを整理したうえで情報を開示しているという印象です。

 2023年度において体感として、大手企業の約4割がしっかりと取り組んでおり、その他の企業と比べて明らかに差が開いているように感じます。

白井 邦博氏

白井 邦博(しらい くにひろ)氏

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 技術開発統括部 コンサルティング部 マネジャー

2002年にリクルートコミュニケーションズ(現リクルート)入社。人材領域の広告ディレクターなどを経験後、組織長として新規事業開発、西日本エリア統括、東海支社長などを担当。2020年よりリクルートマネジメントソリューションズにて、メーカーやインフラ、金融、サービス業などでの人材開発・人事制度構築を支援。

——人的資本開示において注目するべき企業はありますか。

 私が注目した企業は3社あります。1社目はMS&ADです[1]同社は伊藤レポートの内容を忠実に形にしており、とても良くできていると感じました。具体的には、中期経営計画や基本戦略があり、それに連動する形で人材戦略が展開されています。そしてAs is/To beギャップを通じて、現状と理想状態を明確にし、それを実現するための人材ポートフォリオや能力開発の方針が示されています。

 具体的な施策とそれに伴うKPIが示され、その中間指標としてエンゲージメントや生産性にも焦点が当てられている。まさに王道な人的資本開示だと思いますね。特にMS&ADは、人材に対してどのような仕組みで育て、どのような組織で包摂するのか、働く個人に提供できる機会がしっかりと示されている点が非常にポイントが高いと感じました。

——人的資本経営は人への投資が強調されがちですが、働く環境や仕組み、制度があって初めて人は活躍できるため、それらを同時に考える必要はありますね。

 2社目はレゾナック・ホールディングスです[2]同社は、会社が統合した新たなタイミングであり、CEOや経営陣が人的資本経営に熱心に取り組んでいる様子が見て取れます。特にCEOメッセージでは、人的資本経営の重要性や強み、必要な人材像が盛り込まれており、それを実現するためにプロフェッショナル人材の育成や採用戦略のブランディング、そして“ありたい組織像”を実現することが企業のパーパスやバリューを実現することだと全体像を示している。人的資本経営における本気度が伝わる良い事例です。

[2]: レゾナック・ホールディングス「RESONAC REPORT 2023(統合報告書)

——投資家だけでなく、従業員や求職者に対してもしっかりと向き合っている様子が伝わりますね。

 そして、3社目が本田技研工業です[3]。同社では、ホンダフィロソフィーを基盤とした人的資本への取り組みを図解で示しています。中長期的に目標を達成するために、マテリアリティ(重要課題)として特定した問題に対して、実現状態や具体的な施策が詳細に記述されている。これにより、組織全体の方向性が明確になっていますね。

[3]: 本田技研工業「Honda Report 2023

——本田技研工業はEVシフトという大きな転換期を迎えており、従来のエンジン技術から電動化への移行に伴い、大きな変革が迫られているタイミングではないでしょうか。

 おっしゃるとおりです。本田技研工業ではリソースシフトという言い方をされていますが、既存のビジネスから電動化やソフトウェアへのシフトが必要であり、新たな人材の採用と同時にリスキリングを通じた人材ポートフォリオの変更を積極的に推進しています。まさに、経営戦略と人材戦略が密に連動している好例だといえます。

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この記事の著者

北浦 汐見(キタウラ シオミ)

都内のスタジオに勤務後独立。ポートレート、取材、料理撮影等、都内を中心に活動中。

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市古 明典(HRzine編集長)(イチゴ アキノリ)

1972年愛知県生まれ。宝飾品会社の社員、辞書専門編集プロダクションの編集者を経て、2000年に株式会社翔泳社に入社。月刊DBマガジン(休刊)、IT系技術書・資格学習書の編集を担当後、2014年4月より開発者向けWebメディア「CodeZine」の編集に参加。その後、2017年7月にエンジニアの人事...

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山田 優子(ヤマダ ユウコ)

神奈川出身。新卒で百貨店内の旅行会社に就職。その後、大阪に拠点を移しさまざまな業界・職種を経験してきたが、プロジェクトベースの働き方に魅力を感じて2018年にフリーライターに転向。現在はビジネス系取材記事制作を軸に活動しながら、チームで商品企画・開発にも挑戦中。

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