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インタビュー《人的資本経営》| 情報開示を活かす

人的資本開示にいま真剣に取り組むべき理由と開示のポイント、株式市場区分別の取り組み方

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 2023年3月期決算の企業から人的資本の情報開示が求められる。ただ今年度は初めてということで、開示の範囲や内容を決めかねている企業も少なくないようだ。本稿ではその点のヒントを得るべく、Webセミナー「人的資本マニアック報告会」を開催するなど、人的資本経営に深い知見を持つUnipos株式会社 代表取締役社長CEOの田中弦氏にインタビュー。開示を義務への対応に終わらせず、自社が数年後に直面するかもしれない人材の問題をキャッチする重要性などを語っていただいた。さらに、株式市場区分(プライム・スタンダード・グロース)別の開示への取り組み方についても伺った。

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人的資本開示は2027年から広がる人材需給ギャップを見越して

——これまで、多くの日本企業は人材を経営課題としてこなかったように思います。

 人材の採用や育成について、経営会議の場で3ヵ月に1回でも継続的に主要な議題として議論している会社はいまも少ないと思います。また、人事部長が役員会で採用予算や育成予算、採用人数、研修プログラムについて承認を取ってくれば、後のことは人事に一任されていたという会社も多いのではないでしょうか。

 しかしこれが「うちの産業は10年後に大変な人手不足になりそうだ」となった場合、話が変わります。こういうスキルの人をこの人数採用すると決めたとしても、思うようには採用できません。そうなると、社内の従業員にリスキリングして職種を転換してもらったり、女性の管理職が少ないとなれば10年かけて育成したりといった取り組みが必要になります。また、人材の新陳代謝として何人くらいが退職していくのかも考えなければなりません。人事はこうした中長期的な視点を持ち、経営者に近い存在となるはずです。

 つまり、人事は経営と密結合になっていく。そのとき、人材への投資や取り組みを開示する人的資本開示は、決して他人事ではないはずです。また、人的資本への投資や取り組みを開示するとなれば、人材の採用や育成はとたんに「経営ゴト」になります。

田中 弦氏

田中 弦(たなか ゆづる)氏

Unipos株式会社 代表取締役社長CEO

1999年にソフトバンク株式会社のインターネット部門採用第1期生としてインターネット産業黎明期を経験。2005年インターネット広告業として創業、2017年8月にFringe81会社を東証マザーズへ上場。
2021年Unipos株式会社に社名変更し、従業員同士で称賛とピアボーナス(少額のインセンティブ)を送り合う「Unipos」事業に完全一本化。現在は人的資本経営を「Unipos」を通じて“社会実装”することを目的に、カルチャー変革・人的資本投資・心理的安全性の専門家として活動。
著書に『心理的安全性を高める リーダーの声かけベスト100』(ダイヤモンド社)。

——人的資本への投資や取り組みが経営事になった結果、どのような変化があると思いますか。

 昨日も外資系企業で人事のエクゼクティブを務めている方と話をしたのですが、日本企業は全社員を平等に育成していく傾向がありますよね。ジョブローテーションを行い、ゼネラリストとして育成するところが多い。お金も平等にかけています。一方、海外の企業は20代半ばにはこれという人材に目を付けて、その人にこれでもかというくらいの投資をする。それで将来に備えるのだそうです。

 人材が経営上のイシューになってくると当然、海外企業のように見込んだ人材に集中投資する動きになってくると思います。これまで日本は内需が大きくグローバルに目をやる必要が薄かったし、若者がたくさんいたので人材不足を感じることもありませんでした。そのため、人材は経営会議で毎回議論していくものでもなかった。これがついに、3ヵ月に1度くらいは議論しないといけない経営イシューに変わったと思います。

 メンバーシップ型かつ新卒主義で、誰が頭角を現すか分からないから全社員に平等に扱おうという精神はすばらしいとは思いますが、人手不足がますます進む中では、メリハリを付けて人材投資を行い大きなリターンを狙わないと対応できなくなることあるでしょうね。

——そのような人材投資を行うためには、自社の事業の方向などを明らかにし、そのために必要な人材のスキルや人数を、経営陣も語れるくらいになる必要があると思います。

 たとえば、「御社の事業計画を実行するために、どういうスキルの人材が何人必要で、そのような人材を採用や育成により確保するためにどれくらいのコストを見込んでいますか」「御社の業界(介護や物流、小売など)ではラストワンマイルに必ず人手が必要だと思いますが、ますます人材確保が難しくなっていくこの現状は御社にどのようなインパクトを与えますか」と尋ねても、スムーズに答えられる経営者は決して多くないと思います。人手不足は少子高齢化に起因するところが大きいわけですが、その影響を受けやすい産業の企業の経営者は答えられないといけないでしょう。

 また先日、小売業の会社の方とお話ししたとき、2030年には現在より採用できる人数が2割ほど減りそうなので、「このままの離職率だと、御社は従業員数が純減して結果的に稼働率が下がり、ニーズがあっても売上が下がる可能性が大きいです」と伝えたのです。さらに、これに対応するためには、業務改革やリスキリング、DXの実施、AIの導入などが必要になるのですが、「これらにはどれくらい投資されていますか。いまの人件費の2割くらいは投資してもよいはずですよね」と尋ねてみました。その方は、そこまで考えていなかったという反応でした。いまのところは人材を確保できていても、今後は採用できる人数が2割減り、さらにシニアが退職していくことを考えると、その対応をもっと深刻に捉えて経営しなければならない産業はたくさんあると思います。

——そうしたことを少子高齢化といったデータから割り出し、経営者に提言するのは人事の役割のように思えます。

 先日、リクルートワークス研究所が出した「未来予測2040」によると、2027年ごろから急速に人材供給が減少するとありました。私も2027~2030年に影響が一度表面化するだろうなと思っています。そこで、今から10年間先までを予測するシミュレーションをお勧めします。人材供給の急速な減少への対応に必要な「このくらい女性が活躍しないといけない」「このくらいリスキリングしないといけない」「これくらい仕事をAIに置き換えなければならない」といったことを数字で語り、投資額を見積もれるようになります。シミュレーションは人事部だけでなく、経営企画部とともに進めるとよいでしょう。

——リスキリングも次のビジネス展開のためという以前に、不足する人材をカバーするために実施しなければなりませんね。

 いま働いている従業員は、自社のカルチャーに共感し、自社のことを愛してくれているでしょうから、コストをかけて新規に人を採用するよりも、この人たちでカバーすることを優先して考えたほうがよいですよね。また、予想以上に早く少子化が進み、どんなDXも間に合わないように思える一方で、ChatGPTの登場に代表されるようにAIが急速に進化を遂げています。そこで、AIの活用を前提として業務を作り替えたり人事施策を考えたりしてもよいのではないか。人材不足をカバーする1つの希望になる感じがします。

——製造業は1970年代からロボットの導入を前提に業務を変革してきました。ChatGPTの導入はそのホワイトカラー版となる気がします。

 最近弊社の中では、考えることをAIに一部やらせてもよいのではないかという話が出ています。たとえば、自分で3つまでアイデアを出した段階で、4つ目・5つ目のアイデアをChatGPTに出させるということも可能でしょう。ホワイトカラーの生産性はかなり高まると思います。

 ただ、生産性の伸びしろは他にもあります。GPTW(Great Place to Work:働きがいのある会社研究所)の調査によると、従業員満足度が高い人を増やすよりも、仕事への情熱が高い人を増やすほうが生産性が高まるそうです。生産性は会社へのエンゲージメントでいくらでも変わってきます。実は、ここも伸びしろなんですよね。これを10年先予測のシミュレーションに取り入れるのは難しいと思いますが。

 また、チーム力も伸びしろです。「この会社は居心地がいい」「尋ねたらすぐ答えてくれる」「否定されないから意見を自由に言える」というように、人間関係やつながりを良くすることでチーム力が上がり、生産性も高まるでしょう。

 AI活用とエンゲージメントとチーム力。これらは日本企業も投資をすればまだ十分伸びる領域だと考えています。

——以前、田中さんは人的資本開示について「現状が芳しくなくても、そこを伸びしろとして示せばよい。それが人材戦略の提示になる」とおっしゃっていました。AI活用とエンゲージメントとチーム力はその対象になると。

 個々の企業が「AIは近いうちにこう進化するから、人材不足は解消できる」とはいえないと思いますが、エンゲージメントやチーム力を伸びしろとして開示することはできると思います。「現状が芳しくない」という点をネガティブに捉えず、エンゲージメントの低さといった社会課題の解消も含めて伸びしろと表現し、ステークホルダーとコミュニケーションすることは重要なポイントです。

——ステークホルダーは伸びしろだけでなく、成果を示すことも求めるように思います。成果はどう示すのがよいでしょうか。

 人的資本開示は今年やって終わりではありません。経年変化を見せていくことこそが重要です。たとえば今年、従業員満足度調査で9割が満足しているという結果が出たとして、その後も毎年9割だとステークホルダーには響かないですよね。一方で、会社に対して熱い思いを抱いているエンゲージメントの高い社員が、今年は少なくても、数年後に伸びしろを活かして大幅に増やすことができたとしたら、ステークホルダーはその成果を高く評価するでしょう。

 そこで開示するKPIには、経年での変化率が大きいもの・敏感に変化するものや、自社の成長を阻害する要因としても大きい社会課題(エンゲージメントや女性活躍など)への取り組みを選ぶようにします。そして、人的投資により年々KPIの値が向上していけば、戦略どおりに事が進んでいるとステークホルダーに伝わります。

 逆にいえば、1年目から人的資本への投資成果を示すことは難しいと思います。次図の①理想・大義から④アウトプットまでの中で、投資に値しかつ開示に値するものをまず考えましょう。いきなり⑤アウトカム(業績が上がったなど)を示さなくても、数年後に、「数年前に行った人的投資により、今年このような成果が出ました」といえればよいのです。

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この記事の著者

市古 明典(HRzine編集長)(イチゴ アキノリ)

1972年愛知県生まれ。宝飾品会社の社員、辞書専門編集プロダクションの編集者を経て、2000年に株式会社翔泳社に入社。月刊DBマガジン(休刊)、IT系技術書・資格学習書の編集を担当後、2014年4月より開発者向けWebメディア「CodeZine」の編集に参加。その後、2017年7月にエンジニアの人事...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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