営業職キャリア入社のAさんが苦労しながらB社で活躍するまでに至った話
最初に、キャリア入社のAさんが、入社後に苦労しながらB社で活躍するまでに至った事例を紹介します。
前職の営業職で実績もあったので、入社前の私は、営業なんてどこも同じだろうと自信満々でした。ところがいざB社に入社してみると、苦労の連続でした。まず社風になじめませんでした。B社の社員は「お客さんのために」とか、「役に立ちたい」といった言葉を普段からよく使うのですが、キレイごとすぎて正直偽善を感じました。また職場の先輩たちからは、仕事はもちろん、仕事以外の部分にまでも自身のスタンスを問われて、閉口してしまうことが多々ありました。
仕事では、当初は泳がせてもらって壁は感じませんでしたが、入社3ヵ月目から顧客を担当して業績責任を負ったところ、まったく売れませんでした。しかし、前職での成功体験があるので、最初は他人のせいにばかりでした。
ところがあるとき、当時のマネジャーから「いまのAさんの仕事の仕方では、協働してくれる人がいなくなるよ」と言われたんです。この言葉が妙に心に残り、やがてじわじわと効いてきました。自分の当事者意識不足から、お客様に最適とはいえない提案をしてしまい、社内で猛烈に叱られてしまったのです。その後、自分なりに売れない理由を考え、教育担当の先輩を徹底的に真似し、教えを乞うて、いまの自分があります。先輩には感謝するばかりです。
どんな壁も「自分だけじゃない」と知ることで乗り越えやすくなります。周囲が手助けしてくれることはたくさんありますが、ぶつかった壁から何を学び、どう行動するか、最後は自分次第です。答えは自分の中にしかありません。研修やアドバイスは役に立ちますが、それらはきっかけでしかないのもまた事実です。壁をつくるのも自分、乗り越えるのも自分です。壁の向こうには必ず新たな世界が待っています。私はそう信じています。
このAさんの事例は、決して珍しいものではありません。むしろ、このケースには「オンボーディングあるある」が詰まっています。
「3つの壁と6つの症状」とは何か
ここでオンボーディングの定義を確認します。オンボーディングとは、新卒入社・キャリア入社・異動などで既存の組織に新しく参加する人が、早く組織の人や文化・仕事の仕方などを学び、力を発揮するのを支援するプロセスを指します。元は船や飛行機に乗り込むことを意味する言葉です。
私たちリクルートマネジメントソリューションズでは、企業がオンボーディングに取り組む際に「3つの壁と6つの症状」を念頭におくことが大切だと考えています。具体的には次のとおりです。
3つの壁
- 会社文化・職場風土の壁
- 仕事の壁
- キャリア・成長の壁
6つの症状
- 転職先の慣習、職場の雰囲気になじまない
- 人間関係・ネットワークを広げにくい
- 転職先の会社の仕事の進め方に戸惑う
- 転職先の業務知識がなかなか習得できない
- 今の仕事が「自分の目指す状態」につながっていないように感じる
- 周囲のレベルに自分がついていけるかどうか不安を感じる
Aさんの事例でいえば、まず“会社文化・職場風土の壁”がありました。Aさんは、「お客さんのため」や「役に立ちたい」を起点に考えるB社の文化、先輩が常にスタンスを問うB社の風土になじめないという症状を抱えていました。また、Aさんは“仕事の壁”も感じていました。前職で結果を残していために自分のやり方に固執し、B社の仕事の進め方に合わせることがなかなかできませんでした。
さらに“キャリア・成長の壁”もありました。まったく成果が上がらず他人のせいばかりにしていたとありますが、思い描いていた姿とはかけ離れていた自分の姿を受け止められずにいました。そこに、当事者意識を持つことができずに、無責任な対応をして社内で猛烈に叱られるという経験もしています。そのような中でAさんは、マネジャーの「いまのAさんの仕事の仕方では、協働してくれる人がいなくなるよ」という言葉が心に残ったといいます。まさに、周囲のレベルに自分がついていけるかどうかに不安になり、かけられた言葉が強く突き刺さったのだと思います。
新卒入社でもキャリア入社でも異動でも、新しい組織に参加する際は、誰もがこのように3つの壁に直面し、6つの症状にかかる可能性があります。これがオンボーディングの大前提です。
なお、新卒入社とキャリア入社と異動では、3つの壁と6つの症状の傾向がそれぞれ異なります。詳細は今後の回で追って紹介します。