スクラムとは:アジャイルを「実践」するための具体的なフレームワーク
アジャイルは考え方であるため、具体的な行動に落とし込むための「実践方法」が必要だ。実践方法もたくさん提唱されているが、最も広く使われているのがジェフ・サザーランド氏が考案した「スクラム」である。スクラムはソフトウェア開発以外でも使いやすく、人事などでも使われているという。
スクラムは、計画主導型ではなく「経験的プロセス」を採用している。先の見通しが難しい問題に対しては、最初にすべてを計画する方法では失敗の確率が高まる。そこで「少しずつ学習しながら進めていく」アプローチを取るのが経験的プロセスである。
ちなみにサザーランド氏は、スクラムの考案では日本の考え方に大きくインスパイアされたと述べている。特に、野中郁次郎氏と竹内弘高氏が1986年に発表した論文「The New New Product Development Game」でラグビーのスクラムのようだとたとえた、最初から最後までのそれぞれの工程のスキルを持った人が1つのチームに集まり、すべての工程に携わる様子と、トヨタ生産方式における「無駄を省く」という考え方が大きな影響を与えたという。
経験的プロセスではフィードバックループを回して、何かを実行し、その結果から学び、次の活動に活かしていく。そのためには、次に挙げる3つが重要な柱であり、スクラムでの仕事の進め方の土台となる。
- 透明性:作業プロセスを可視化し、適切な情報が共有されていること
- 検査:経験から得られた結果を定期的に評価すること
- 適応:検査結果に基づき、次の行動を変え、調整すること
スクラムでは「チームが生み出すもの」と「チームの仕事の進め方」について、これら3つの柱を実践していく。スクラムのフレームワークにはそれが組み込まれている。
スクラムのフレームワークを1枚の図で表すと次図のようになる。

スクラムでの仕事の進め方を簡単にまとめると次のとおりだ。
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- 仕事のリストの作成
- まず、チームで「1つの仕事のリスト」を作成する。個人ではなく、チーム全体で1つの仕事に取り組む。
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- 仕事の計画(スプリントプラニング)
- 検査と適応をしていくため、スクラムでは短期間(決まったリズム。1週間など)で仕事を繰り返す。この1つの期間のことを「スプリント」という。各スプリントの初日には、その期間内で「何をやるのか」というゴールを定め、計画を立てる。
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- 顧客に届ける(プロダクトインプリメントとインクリメンタルなプロダクトリリース)
- 作業を行い、完成した成果を顧客に届けてフィードバックを得る。
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- 計画を変える(デイリースクラム)
- 毎日、設定したゴールが達成できるかを再確認し、計画を修正しながら作業を進める。
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- 学びと改善
- スプリントの終わりには、次の2点を行い、必要に応じて改善する。
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- 成果から学ぶ(スプリントレビュー):顧客からのフィードバックをもとに制作物を確認する。
- 働き方から学ぶ(スプリントレトロスペクティブ):チームの仕事の進め方について話し合う。
スクラムではこれらを実践することにより、アジャイルな考え方を実現していく。
なおスクラムでは、特定のリーダーを置かず、3つの役割が自律的に活動する。そのため、自律的な組織をつくるときに、スクラムは使い勝手がよいという。
- プロダクトオーナー:何が最も価値になるかを判断し、チームが達成すべき仕事の優先順位を決定する
- 開発者(デベロッパー):プロダクトオーナーが決めた価値を実際に形にしていく
- スクラムマスター:チームの仕事の進め方や、チームそのものを改善するための責任を持ち、チームがスクラムを効果的に実践できるよう支援する
人事におけるアジャイルの可能性:組織と人事自身の変革
では、人事としてアジャイルの可能性をどう捉えるのがよいのか。これには2つあると庭屋氏はいう。
「1つは、会社の組織全体をアジャイルにするにはどうすればよいかを考えること。人事のミッションとしての捉え方です。もう1つは、人事自身が自らの仕事の仕方をより良くしていくこと。会社の働き方を改善したいのに、そもそも人事は残業が多いといったことを解消します」(庭屋氏)
最後に庭屋氏は、「Don't just do Agile, be Agile.(アジャイルを『やる』のではなく、アジャイルに『なる』)」という言葉を強調して会場に伝えた。スクラムを導入することや、アジャイルを実践すること自体が目的となってはならないという意味だ。
「人事であれば、社内の組織の成功や成長が目的です。そのために使われる手段の1つが、アジャイルなマインドセットであり、スクラムというフレームワークであると捉えていただきたいと思います」(庭屋氏)