「闇雲に母集団を増やすのはやめた」——認知度に不利な状況をどう打破するか
続いて、自動車関連や製造業向けにエンジニアリングサービスやコンサルティングサービスを提供するSOLIZE Ureka Technologyの堤寛朗氏が登壇。同社の新卒採用に関する戦略を語った。
新卒採用市場では、大手コンサルティングファームや大手製造業メーカーが競合となる同社。認知度において圧倒的に不利な状況で、同社は3年で年間採用数を1.7倍に、新卒採用数にいたっては約2倍へと拡大させている。
特筆すべきは、そのアクション内容だ。堤氏は「超売り手市場の中で、認知度が高くない我々が闇雲に母集団を増やそうとするのは非効率だと考えた」と述べ、“母集団やエントリー数を増やして選考で絞り込む”プロセスは行わないことに。代わりに、自分たちを探し当ててくれた学生とのコミュニケーション密度を高め、内定承諾率を向上させることに注力した。
エントリーの“質”が向上 数は横ばいだが内定承諾率が2倍に
施策の1つが、採用プロセスの質的向上だ。まず、新卒採用で募集する職種を3区分に明確に切り分け、職種別採用を実施。「細かく区切れば区切るほどマッチする精度は高まるが応募が来ないというジレンマがある。職種をどのレベルで区切るかは今後も検討の余地がある」としながらも、入社後のアンマッチを防止している。さらに、社名にも通じる「ユリーカ(閃き)」をキーワードに、イベントから面接、入社後のフォローに至るまで一貫したメッセージを発信している。
また、情報発信の要として、採用サイトのコンテンツも大幅に拡充させた。現在、各職種の社員インタビューを多数掲載しており、その数は社員全体の10%以上となる46名。入社後1~2年の先輩からベテランまで、多様な働き方ややりがいを可視化している。
その結果、採用サイトのページビューは2年間で4倍に増加。一方で、エントリー数そのものはほぼ変化していない。堤氏はこの状況を「我々のことを深く研究し、働くイメージを持てた学生が応募してくれている。エントリーの質が向上している証拠だ」と捉えている。実際、内定承諾率はこの2年で2倍に増えたという。
「自分たちがコントロールできることをやり抜く」
内定承諾率を2倍にまで引き上げた最大の要因は、「1人ひとりに向き合う」姿勢にあると堤氏は強調する。同社では、採用チームだけでなく、第一線で活躍する社員が直接学生とコミュニケーションを取る機会を多く設けている。さらに、面接では単なる「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」の確認にとどまらず、学生本人が気づいていないような行動原理や判断基準を掘り下げるようにしているという。
「面接官は選考する立場であると同時に、選ばれる立場でもある。この人といっしょに働きたいと思う学生には、現場社員が面接外でも積極的にアプローチするようにして、エントリーや選考を促すようにしている。自分たちでコントロール可能な内部のアクションを徹底的にやり抜くことにこだわった」(堤氏)
今後も売り手市場の傾向が続く見込みの中で、新卒採用は企業と学生が互いの価値観とスキルを緻密にすり合わせる「相互理解」のフェーズへと移行している。自社の選考基準を再定義し、現場社員を巻き込んで“自社のリアル”を伝え抜くことが、これからの採用成功に必要な姿勢となりそうだ。

