2. 裁判所の判断
(1)試用期間の考え方について
本件労働契約およびY社の就業規則には試用期間の定めがあるところ、本件解雇は試用期間中に行われたものであり、Y社代表者も本件解雇に際し試用期間が3ヵ月であることを伝えている。
このことから、本件解雇は、Y社に留保された解約権の行使として行われた趣旨と解するのが相当である。
そして、このような留保解約権の行使は、解約権の留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認され得る場合にのみ許されると解するのが相当である。
(2)本件名簿提出の評価と留保解約権行使について
Y社は、Y社の営業社員には、これまでの職歴等から、すでに富裕層の人脈を持ち、さらなる人脈形成が得意な者であることを求めていた。
そして、Xは、本件名簿を提出して、掲載者と信頼関係があり、営業をかけることができる旨述べている。
しかし、実際はそのほとんどが知人ではなく、Xには超富裕層を紹介できる人物との人脈などないことが判明したから、留保解約権の行使には合理的理由がある旨主張する。
そこで検討するに、Y社の事業内容、営業社員の業務内容、求人広告の記載内容およびXの履歴書の記載を総合すれば、Y社は、Xを含む中途採用する営業社員に対し、従前の職歴を生かす等して、富裕層とのつながりを有する人物に接触しての営業活動を期待していたことが認められる。
しかしながら、Xは、2次面接において、本件名簿に掲載された者に対し積極的なアプローチをしていく旨述べているものの、本件名簿の掲載者との関係についてどのような説明をしていたかは、本件全証拠によっても明らかではない。
また、Y社代表者は、Xが実際に知人に営業資料を渡したことを確認した後に2次面接を実施した一方で、2次面接においては、本件名簿の掲載者に営業を行うことができるかという質問をするものの、掲載者とXとの人的関係については確認していない。
以上によれば、Xが、本件名簿の掲載者との間に人的関係がある旨の説明をしたと認めるには足りない。
Y社にとっても、Xと本件名簿の掲載者との人的関係の存在および内容が、本件労働契約を締結する上で必要な条件であったとも認められない。
その他、職歴のある中途採用者として一般的に期待される能力等を超えて、Xが富裕層との折衝経験を持っている、または富裕層の人脈を持っていることが、本件労働契約においてXが備えておくべき職務能力または資質であったと認めるに足りる証拠はない。
そうすると、Xが富裕層との折衝経験を持っていなかった、または富裕層の人脈を持っていなかったとしても、そのことをもって、「従業員として勤務させることが不適格」(就業規則4条2項)であったり、「業務に適性を欠く」ということはできず、留保解約権行使の客観的合理的理由ということはできない。
(3)営業成果および業務遂行状況と留保解約権行使について
次に、Y社は、Xが一般の営業担当としての職務遂行能力も不足していた旨主張する。
Y社の営業社員の業務はパートナー候補とY社代表者との面談の設定であり、Xはパートナー候補との面談を継続的に行っており、1名のパートナー候補とY社代表者との面談も実施されている。
そして、Y社の事業内容や営業社員の職務内容に照らして、営業社員が短期間で成果を出すことは困難であることも考慮すれば、Y社が当該パートナー候補を通じてエンドとの契約に至らなかったとしても、そのことをもってXが「従業員として勤務させることが不適格」であったと認めることはできない。
Xが、営業先等の関係者に対し、顧客情報や、Y社のコンサルティング料や紹介料をメールで送信したことについては、単発の事情であり具体的な損害も認められない。
このことから、かかる事情をもって、直ちにXが「従業員として勤務させることが不適格」と認めることはできない。
Y社代表者は、Xの営業先が誤っているとしてXに指導をしており、Xが営業を行う相手方の選定について不足を感じていたことが認められる。
しかしながら、Y社の指導は営業を行う相手方の属性を指摘するのみで、営業の手法等について具体的な指導を行っているものではない。
かかる指導がされたのみで、今後の指導によっても客観的に改善の見込みがないということはできない。
その他Y社は、営業先からの質問に適切に回答できず、営業先からはひどい営業である旨の指摘を受けていたなど、Xの営業活動が不十分であった旨主張するが、いずれも裏付けを欠くものであり、採用することはできない。
以上によれば、Xが相当額の賃金の支払いを受ける中途採用者であることを考慮しても、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在するとはいえず、社会通念上相当として是認できるともいえない。
よって、本件解雇は無効である。

