従業員体験の向上は“足元”から全体を巻き込む
熊谷 最後に、人事パーソンの読者に向けて、従業員体験や組織内の関係性の向上についてアドバイスをいただけますか。
伊達 組織の従業員体験を向上したいなら、まずは人事組織内で関係性ができているか見直してみてください。人事部内で縦・横・ななめの関係性をきちんとつくり、そのうえで「現場でもこういう取り組みをやっていこう」と働きかけるのです。
人事は、従業員体験=現場の問題と思い込みがちですが、人事も現場の1つです。まずは足元から従業員体験を改善していきましょう。
もう1つ重要な点が、従業員体験の向上は人事だけでは実現できず、さまざまな協力が必要になるということ。すべての施策を人事だけで作り込むのではなく、人事が触媒となって仕組みをデザインするイメージです。
特に組織の規模が一定以上になると、人事だけで全従業員の行動を粘り強く変えていくことは難しいでしょう。人事内の足元の変革は具体的に行って、組織全体にはデザインする意識が重要です。
熊谷 従業員体験のデザインのやり方にはどんなものがありますか。
伊達 1つには、上司から部下への「権限移譲」があります。マイクロマネジメントを控え、できる限り仕事を任せていくのです。これは非常に有効に機能すると感じています。
もう1つ、「失敗を共有する場をつくること」も大事です。というのも、企業組織の中では評価を気にして失敗をオープンにできないことが多いと思います。そこで、「失敗しても問題ない」と思える環境をデザインしていく。そのためには、失敗を共有する場をつくることがポイントです。
たとえば上司が「役員会議で全然関係ない話をしてしまって、空気が冷えた」といった失敗談を共有してくれると、その上司の前では失敗を気にしなくて大丈夫だというふうに思えますよね。
熊谷 こういった取り組みを継続するために、人事パーソンが持ち続けるべき視点はありますか。
伊達 私は、エビデンスに基づいて行動すると視野が広がると考えています。「人間はポジティブな情報を覚えておくのが苦手」と分かると「じゃあメモしておこう」と思えますよね。人事の施策もそういったエビデンスをもとに考えていくとうまくいくのではないでしょうか。
もちろん、エビデンスが唯一の答えというわけではありません。ただ、根拠を知っていると壁にぶつかったときに、施策のバリエーションを広げて課題解決に向かえると思うのです。
以前と比べると、人事の領域に関する科学的な知見は手に入れやすくなりました。人事関連の書籍といえば、従来は『人的資源管理入門』といった堅いものが多かったのですが、最近はさまざまなテーマで専門家の方が書かれた書籍が増えています。
これからは、そういった書籍から得た知見を実践して、自社の環境で使えるかどうか実証していくプロセスが大事になってくると思います。

取材後記(熊谷優作)
伊達さんのお話の中で、特に印象に残ったのは「まずはサーベイではなく、従業員の声を直接聞くことから始めてほしい」という言葉でした。仕組みやツールを整える前に、まず対話がある。その順番の大切さを、改めて考えさせられました。
もう1つ心に残ったのは、「ポジティブが大事」という風潮を、感覚論ではなく理論で裏付けていた点です。人はなぜ、ポジティブフィードバックよりもネガティブフィードバックをしがちなのか。また、なぜ受け取る側にとってはネガティブよりもポジティブのほうが効果的なのか。そうした“なんとなくそう思っていること”を、「ネガティビティバイアス」や「記憶無視」といった言葉で解き明かしてくださり、目からうろこが落ちるようでした。
やはり、従業員体験の向上は、何か特別な施策を打つことではなく、日々の関係性のデザインの延長線上にある。そして、その鍵を握るのが「感謝」なのだと思います。「よくやったね」「君のおかげでうまくいったよ」。そんな言葉が、もっと自然に、もっと頻繁に交わされる組織に。そして、そのきっかけとなる“何か”を、我々ギフティとしてもさらに生み出せないだろうか。そう考えさせられる取材となりました。

