「ホメ」の効能と実践のコツ なぜネガよりポジが良いのか

熊谷 伊達さんは著書『組織と人を動かす科学的に正しいホメ方 ポジティブ・フィードバックの技術』の中で、「褒める」というポジティブフィードバックを推奨されています。どのように実践したらよいでしょうか。
伊達 まず、周辺的なところからお話しします。「人はなぜよく(ポジティブフィードバックより)ネガティブフィードバックをするのか」について考えてみましょう。何度忠告しても改善しない場合でも、人はネガティブなフィードバックをしつづけます。
これは、人間には「ネガティビティバイアス」があり、自分の周囲のネガティブな情報をポジティブな情報よりもはっきり記憶する傾向にあるからです。たとえば、上司が部下を怒るときには「昨日の打ち合わせでのあなたのこの発言が良くなかった」といった、具体的な記憶に基づいた指摘になります。
一方で、ネガティブな情報を伝えられた側はどうでしょうか。ネガティブフィードバックは、「あなたはこれができていない」「こう改善したほうがいい」といった自分に関するネガティブな情報です。心理学では、このようなネガティブな情報を受け取った人は、その記憶を引き出しにくくなるといわれています。これは「記憶無視」という自然な反応です。
つまり、ネガティブフィードバックは効果が出にくいものなのです。
一方、ポジティブフィードバックは関係を深めるのに役立ちます。具体的に褒めることができれば、上司・部下の関係の質も向上しますし、横の関係にも良い影響を与えます。「自分はここで活躍できているんだ」と感じ、存在を認められた気持ちになります。
「褒める」ということは心理的安全性を高め、さまざまな関係性に効果を発揮するのです。
ただし、「よくやったね」と曖昧に褒めるのではなく、“具体的に”褒めることが非常に重要。これがポジティブフィードバックの難しいポイントです。
人はネガティブなことは明確に覚えている反面、ポジティブなことは記憶に残りにくいのです。よく「恥ずかしいから褒めるのが苦手」といった話を聞きますが、恥ずかしさ以前に褒めるポイントを覚えていないことが多いのではないでしょうか。
熊谷 だからこそ、ポジティブフィードバックは「技術」として意識的に身に付けることが大事なのですね。
伊達 そうです。人間の認知の特性に身を任せているだけで自然に褒められるかというと、そうではない。普段から意識的に部下や同僚のことを観察して、メモして、ポジティブなポイントを覚えておく努力が必要なのです。
熊谷 『組織と人を動かす科学的に正しいホメ方』では褒める技術として、「感謝」を挙げていましたよね。
伊達 そうですね。そもそも、感謝自体が良い効果をもたらします。人間関係を深め、感謝された人はモチベーションやパフォーマンスが高まるということが実証されています。
そのうえで、日ごろのコミュニケーションの中にポジティブフィードバックを取り入れるなら、感謝はちょうどよいと思います。
部下から上司へ、または同僚同士でのポジティブフィードバックにおいて「これがよくできていましたね」と表現するのは上から目線に受け取られる可能性もありますよね。そういった場合に「このときの◯◯という発言がありがたかった」と感謝の形で伝えると自然です。

熊谷 会社として「バリューを体現した人を褒め合いましょう」という文化もあれば、純粋に個人的にありがとうの気持ちを伝えるという方向もあると思います。従業員体験の向上に関していえば、どちらが重要なのでしょうか。
伊達 たしかに、「会社にとってプラスになるからありがとう」というやり方と、「個人にとってうれしいからありがとう」という感謝の仕方の両方ありますよね。どちらも重要で、それぞれ異なる効果があると思います。
前者の会社基準のポジティブフィードバックを重ねると、会社に向かう行動が強化されます。「今後も自社のビジョンに基づいて行動していこう」と、会社への貢献意欲が高まるのです。
一方で、後者の感謝を続けると、「この部下」「この同僚」といった「個人」にとって良い行動をしようと意識するようになります。たとえば、仕事を抱えすぎて困っている同僚を見て、「お世話になっているし、助けようかな」といった気持ちになるのです。

