縦・横・ななめの関係性、それぞれへのアプローチを

熊谷 従業員体験には、上司部下・先輩後輩、さらには同僚同士など多様な関係性が含まれます。職場の人間関係の改善のために、人事は何ができるでしょうか。
伊達 関係性を分類し、それぞれにアプローチすることは重要ですね。
たとえば、上司と部下の「縦」の関係。これは会社以外ではあまり見られない特殊な関係性で、「評価する人」「される人」という権力関係になっています。人事の立場からは、この特殊な関係をデザインすることが大事です。
この縦の関係を良くするためには、上司の振る舞いがカギになるといわれています。上司がビジョンを掲げたり、褒めたり、あるいは部下のことをよく観察したりすることで、関係性の質を向上できるのです。
さらに、上司と部下の信頼関係を築くうえで、権限移譲の推進は欠かせません。任せられる仕事の量や質が、両者の信頼関係を表すといえるでしょう。部下は、責任ある仕事を任されることで上司からの信頼を感じます。
一方で、同僚同士の横の関係性で重要になるのは、また違うポイントです。水平的な関係では、互いに遠慮なく意見を言えるかといった心理的安全性が重要になります。
たとえ同僚同士でも、「職場だと言いたいことを言えない」という人は多いでしょう。それは「評価懸念」が要因です。人は「自分がこんなことを言うと無能だと思われるかもしれない」「空気が読めない人だと思われたら嫌だ」といった、自分の評価を気にする側面を持っています。
同僚同士の関係を構築する際には、この評価懸念をいかに緩和するのかが重要。そして、そのカギはマネージャーが握っています。というのも、上司自身が失敗する様子を見せていたり、失敗を許容する空気をつくったりすると、部下も「評価を気にしなくていい環境なんだ」と思えて横の関係性も築きやすくなるのです。
そして、組織には「ななめ」の関係性もあります。メンタリング制度を導入し、上司以外にメンターが関わる仕組みをつくっている企業も増えています。しかし、ただ先輩社員と後輩社員をマッチングさせるだけで、メンターへの教育が不足しているケースも少なくありません。
メンターは、後輩に悩みを打ち明けられたときに何をすればよいのか、そもそも悩みを聞くにはどうしたらいいのか、理解しておく必要があります。人事はそのための教育をサポートするべきでしょう。
自社が「縦・横・ななめ」のどの関係性に課題を抱えているのか、という視点を持ち、注力すべき関係性を見極めることが大切です。「うちの会社は上司・部下の関係は微妙だけれど、同僚同士がうまくやっている」といった場合もあります。
熊谷 メンターは自分の部下ではないメンバーに対して、評価を前提としないメンタリングをするということですよね。それはメンターの立場からすると、「なぜそこまで行う必要があるのか」と感じる人もいるかと思いますが、どう対応すればよいでしょうか。
伊達 メンターも、メンタリングを受ける側も、「評価しない」ことの価値を理解する必要があると思います。自分を評価する人の前で話をするとき、人は評価されようとします。
一方で、利害関係のない人がメンターを務めるときの大きなメリットは「評価する/される」関係においては言いにくいことも言えること。それがななめの関係性であり、コミュニケーションの質が異なります。
直属の上司がメンターを兼ねている場合もありますが、上司・部下という縦の関係になるので、おすすめしません。評価しない/されない取り組みだからこそ価値があるという理解を深めてもらう必要があります。

