「人的資本経営2.0」へ。人材投資を企業価値に転換する
ここまでの取り組みが、同社の「人的資本経営1.0」だ。山崎氏が次に掲げるのが「人的資本経営2.0」である。高めた人材価値を、企業価値や財務価値、社会価値へと転換させる挑戦だ。
同社の経営理念には、顧客・従業員・取引先・社会・株主の「5つの価値」を等しく高めていくという考えがある。しかし過去のデータを見ると、必ずしもすべての価値が連動していなかった。
「過去5年間で年平均4.5%の賃上げを実施しましたが、生産性の改善率は年2.3%にとどまりました。また、営業利益の生産性は回復しても、株価などの企業価値向上には直結していません。人的資本投資の結果を企業価値へとつなげる難しさを痛感しました」(山崎氏)
そこで山崎氏は、人事施策と経営理念の間に明確な「ファイナンシャルゴール」を設定する必要があると考えた。同社が設定したのは「1人当たり粗利益」の向上である。
考え方はこうだ。人材投資でエンゲージメントが高まれば、生産性が上がり「1人当たり粗利益」が伸びる。人件費は上がっても、適切な売上高人件費率や労働分配率を維持できる。結果として、売上成長と利益成長を両立させ、ROE(自己資本利益率)を向上させることで、最終的に「企業価値」「株式価値」の向上につながる。
「エンゲージメントを高めて終わりではなく、その先の企業価値や財務指標にどうつなげるか。そこまで見据えて人的資本経営に注力することが、これからの人事には求められます」(山崎氏)
5年分のデータが証明。エンゲージメントと生産性の相関性
この「エンゲージメントが業績につながる」というストーリーは、単なる願望ではない。山崎氏は2021年から2025年の5年分のデータを用いて、エンゲージメントと生産性の関係性を統計的に検証した。検証の結果、次の3つの事実が明らかになったという。
- 当年のエンゲージメント改善は、翌年の生産性向上と相関する(エンゲージメントは先行指標となり得る)
- 特にエンゲージメントが「プラスに改善している局面」において、翌年の生産性との相関が極めて強い
- 逆に「生産性が上がったからエンゲージメントが上がる」という相関は見られない
「分析の結果、エンゲージメントの向上は、翌年の生産性を押し上げる先行指標になり得ることが分かりました。だからこそ、今後も従業員エンゲージメントに投資をして、生産性や企業価値向上につなげていく。このPDCAを回していきたいと思っています」(山崎氏)
最後に山崎氏は、人事パーソンに向けて次のようなメッセージを送り、セッションを締めくくった。
「人的資本経営という言葉が広まり、これほどまでに『人事』という職務が期待されている時代はありません。これは私たちにとって大きなチャンスです。これからは『人事』という枠組みを越えて、企業価値や社会価値にまでリーチしていく。そんな気概を持って、ともに仕事に取り組んでいきましょう」(山崎氏)

