V字回復の裏で進行していた「エンゲージメントの二極化」
エンゲージメントを起点とした戦略は見事に奏功した。2023年には、eNPSがコロナ禍から16ポイント改善。退職率も低下し、業績回復に伴って平均年収もコロナ前の水準に回復した。まさに「悪循環」から「好循環」への転換を実現した瞬間だった。
しかし、話はそこで終わらない。翌2024年のサーベイで、eNPSが3.6ポイント低下したのだ。山崎氏が分析すると、新たな課題が見えてきた。組織内での「エンゲージメントの二極化」である。
「若手や役職者のエンゲージメントは高い水準を維持していました。これは、意欲のある人材への機会提供が成果を上げた証です。一方で、30代を中心とする『中堅層』のスコアが低くなっていました。若手への手厚い投資が、反作用として中堅層のモチベーション低下を招いていたのです」(山崎氏)
中堅層は、現場で一人前以上の成果を求められながらも、まだ管理職ではないことが多い。また、家庭と仕事の両立に悩む世代でもある。組織のボリュームゾーンである彼らのスコア低下が、全社の数値を押し下げる要因となっていた。
ミドル層への軌道修正。称賛文化と柔軟な働き方で回復の兆し
売上の8割は2割の顧客が生み出すという「パレートの法則」がある。これを組織論に応用したのが、組織は「トップ2割・ミドル6割・ボトム2割」で構成される「262の法則」だ。
この法則を自社に当てはめた際、山崎氏は1つの仮説にたどり着く。これまで注力してきた教育や対話といった施策が、熱量の高い「トップ2割」にしか響いていなかったのではないかという懸念だ。
ならば、組織の屋台骨を支える「ミドル6割」の仕事に対する動機付けとは何なのか。サーベイの結果から明確な答えが見いだせなかったため、山崎氏は仮説に基づき、彼らの志向を次表のように整理した。
| トップ2割 | ミドル6割 | |
|---|---|---|
| 働き方への志向 |
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| 発揮したい能力 | リーダーシップ | フォロワーシップ |
| 有効な施策 |
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「ミドル層には心理的安全性を高めるアプローチが必要だと考えました。そこで2024年以降は『称賛文化』の醸成や『働き方の柔軟性』に注力しました」(山崎氏)
エンゲージメント向上につながる項目を見極め、投資して人材価値を高める。この軌道修正により、直近の2025年度末の調査では、中堅層のエンゲージメントに回復の兆しが見え始めているという。

