「スキルベース組織」への転換——グローバル先進事例に学ぶスキル管理
日本企業がスキル管理の失敗ループから抜け出すポイントを紹介しましたが、グローバルではここ数年「スキルベース組織」という考え方に基づいて人材マネジメントを行う例が増えています。実効性の高い仕組みとして、日本企業でも取り入れられる要素がありますので、4つの例を紹介します。
【例1】スキルベース採用 ~面接の「印象」によるミスマッチを防ぐ
人材採用において、短時間の面接だけで候補者の真価を見極めるのは容易ではありません。過去の経歴や面接時の印象は貴重な判断材料ではありますが、それらに偏り過ぎると、会社が求める責任・役割を担う能力があるのかという実力の判断がおろそかになります。「経歴も人柄もすばらしいが、実務では役に立たない」というミスマッチを経験した企業も少なくないと思います。
スキルベース採用では選考プロセスを通じて、求めるスキルの習熟度を客観的に評価することを重視します。そのため、募集ポジションに求められるスキルを明確に定義します(通常は職務記述書にあらかじめ定義されている)。
このスキルを面接で見極めていくのですが、限られた時間ですべてのスキルを見極めるのは難しいので、面接ごとに評価すべきスキルを分担し、多角的な判定を行います。面接官は、会社にフィットするか、いっしょに働きたいと思うかなどの総合評価もしますが、スキルに関しては経歴や主観的な印象に流されないように留意します。職種によっては、実務に近い課題やプレゼンテーションを課すことで、より具体的なスキル評価をする場合もあります。
【例2】キャリア開発 ~成長の「現在地」を客観視する
従業員自身が、職務遂行に必要なスキルが十分身に付いているのか、過去から成長しているのか、次のステップに上がる準備はできているのかなどを認識するために、職務定義に沿ったスキルベースの自己評価を行います。上司からも評価・フィードバックを受けることで、自身を客観視できるようにします。より客観性を高めるために同僚からもフィードバックを求める場合もあります。
属人的な評価ではなく、スキルベースで語ることで、納得感の高いフィードバックが可能になります。なお、自己評価内容を上司が評価するステップはありますが、本人の成長支援を目的としており、昇給・昇降格などの処遇判定に連動させないのが一般的です。
【例3】キャリア自律 ~機会の提示が「スキル登録」の動機を生む
事業ポートフォリオの転換に伴い、社内人材のリソースシフトが必要になることがあります。欧米企業だと余剰な人を切り、必要な人を採用すればよいと思われるかもしれませんが、欧米企業であっても人の切り貼りでの人員調整は容易ではありません。社内の優秀な人材が自発的にリスキリングやリソースシフトすることを理想として、スキルベースでのキャリア自律を促します。
運用の中心は、「タグ型+定性管理型+コミット型」のコンセプトに基づいたプラットフォームです。従業員は、AIによる提案を受けながら自身の保有スキルを登録していきます。その内容をもとに個人に最適な成長・挑戦機会が推奨されます(オポチュニティマーケットプレース)。具体的には社内公募案件、成長に必要な研修、ロールモデルになりそうなメンターのマッチング、組織横断の社内プロジェクトなどです。
「スキルを登録すれば、自身の成長・挑戦機会が提案される」というインセンティブがあるため、従業員は自発的にスキル情報をアップデートします。同時に会社側としても、将来の事業ポートフォリオに基づく要員計画をしており、会社として望むリソースシフトの方向性(オープンポジション)を推奨する仕組みとなっています。結果として、会社・個人のWin-Winな関係による円滑なリソースシフトが可能となります。
【例4】スキルベースワークフォースプランニング ~将来のリソースシフトに備える
スキルベース組織の施策が適切に運用されると、会社内に必要なスキルデータが蓄積されます。このデータを用いて、スキルベースでの異動候補者、プロジェクトメンバーなどの人材探しが可能となります。
また、グローバル先進企業では、要員計画を「ポジションベース」で立てる一方、不確実な将来への備えを「スキルベース」で管理しています。
たとえば、将来の業界トレンドの大きな変化により、既存事業の縮小と新規事業の急成長が予測される企業があるとします。予測が確実であれば、今から緩やかなリソースシフトを進めればよいですが、現状では既存事業もしっかり成長しており、早期に人員を縮小してしまうと大きな機会損失を招く恐れがあります。また、新規事業の成長予測も不確実であったり、いきなり状況が変わってしまったりということも少なくありません。
その場合、要員計画上は既存事業の人材をしっかり確保しつつ、並行してその人材に新規事業で必要なスキル習得も促します。そして、スキルの総量を可視化しておくことで、事業構成の変化が起きた際にリソースシフトを実行する準備がどのくらいできているのかを速やかに把握し、早期に対策を打つことができます。
以上の例のとおり、スキルベース組織といっても固定的なスキル管理方法ではなく、場面によってスキルの活用方法が異なります。
また、スキルベース組織について、「ジョブ型からスキル型への移行」という二項対立で語られることがありますが、スキルをうまく活用している企業では、ジョブとスキルをうまく連動させています。日本企業において必ずしもジョブ型を取り入れる必要はないかもしれませんが、スキルの活用について、上記の例を参考にジョブやポジションと合わせて考えてみるのもよいと思います。
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「スキル管理」は、人材の能力を可視化・定量化できそうであったり、その能力値をもとに最適な組み合わせができそうであったりすることから、人事だけでなく経営層にも興味を持ってもらいやすいテーマです。しかし、スキルが万能でないことや主観要素が入ることを認識したうえで最適な活用を考えていかなければ、どれだけテクノロジーが進化しても形骸化リスクはなくなりません。施策を推進する立場の方も、活用の当事者である従業員や事業リーダーの視点を持ち、何がうれしいのかを意識して取り組むと、より良い活用ができると思います。
HRモダナイゼーション推進の参考にしていただけると幸いです。

