ポイント3 スキル管理のコンセプト設計
スキル管理の仕組みを構築するうえで重要なのは「コンセプト設計」です。一口にスキル管理といっても、その考え方は企業によってさまざまです。ここでは、日本企業に多く見られる手法と、キャリア自律を推進するグローバル企業で取り入れられている手法を比較しながら、コンセプト設計の要点を解説します。
1) ガチガチ定義型 vs. タグ型
「ガチガチ定義型」は、スキルを網羅的かつ体系的に整理する考え方です。大分類、中分類、小分類、細分類、詳細分類などと多段階の階層管理をしてスキル一覧表を厳密に作成・管理します。
「タグ型」は、分類や粒度の大小に縛られず、スキルを独立した「タグ(整理用のラベルや付せんのようなもの)」として定義する考え方です。事業特化型の専門スキル、思考法などのビジネスのベーシックスキル、さらには自社の業務に無関係な趣味とも解釈できるスキルまで、あらゆる要素をフラットにタグ化して扱います。
2) 定量管理型 vs. 定性管理型
「定量管理型」は、スキルの習熟度を数値で管理する考え方です。一般的にはスキルレベルを5段階などの数値でレーティングします。各習熟度レベルの定義もされますが、最終的な判定は個人の主観に委ねられやすく、必ずしも客観性が担保されるわけではないという側面もあります。
「定性管理型」は、スキルの有無だけを管理する考え方です。数値による習熟度判定は行いませんが、「⬤⬤上級」「⬤⬤中級」というように名称の中にレベルを含めることで、習熟度を区分することがあります。
3) 承認型 vs. コミット型
「承認型」は、従業員が保有するスキルを会社側が評価・認定することを重視する考え方です。具体的には、本人の自己申告内容に対し、評価者(上司など)が査定・承認を行うことで、初めて公式なスキルとして認められます。「自己申告には過大評価が含まれえる」という性悪説的視点に立った考え方です。
「コミット型」は、自己申告内容について「本人がスキル保有を確約(コミット)した」と捉える考え方です。上司による承認プロセスを介さず、本人の申告をそのまま認めます。会社側はスキルがあるという前提でパフォーマンスを期待する、性善説的視点に立った考え方です。
上記に挙げた手法のいずれもどちらが正しいということはありません。スキル管理の目的に応じて使い分けるべきものです。
しかし、日本企業においては目的に関係なく「ガチガチ定義型+定量管理型+承認型」が前提のように考えられています。自社の人事戦略やスキル管理の目的に合わせて、これらの要素を戦略的に組み合わせることが重要です。
ポイント4 コンセプトにあったテクノロジー活用
ポイント3でのスキル管理のコンセプトは、テクノロジーの活用方法にも影響を与えます。ここでは「ガチガチ定義型(+定量管理型+承認型)」と「タグ型(+定性管理型+コミット型)」という2つの対照的なコンセプトを例に、その違いを説明します。
【例1】ガチガチ定義型(+定量管理型+承認型)
運用方法
- 全社一律、または、職種ごとに固定されたスキルリストを定義する
- 定義されたリストに基づき、従業員が5段階評価で各スキルの成熟度を自己申告する
- 上司がその内容を査定・承認することで、スキル情報を確定させる
長所
- 同一職務の人材、または同一スキルを持つ人材を横並びで比較しやすい
短所
- スキル個性(個々人の独自の保有スキルや特徴)が見えにくく、個別最適化された推奨やマッチングには不向き
- 現職務に限定したスキル管理に陥りやすく、他部門や新しい職種への適性の判断が困難
【例2】タグ型(+定性管理型+コミット型)
運用方法
- 粒度や種類を問わず、多様なスキルタグを準備する(外部ベンダーのスキルライブラリを活用)
- 従業員が主体的に保有スキルを登録する(AIが経歴などからスキルを推論・提案するなど、登録を支援する仕組みを併用する)
長所
- スキル個性が可視化され、同じ職種であっても個別最適化された推奨・マッチングが可能
- 現職の枠を超えた幅広いスキルを把握できることから、人物像把握や異動検討時の適性判断に役立てられる
短所
- 一律のスキルセットに基づく横並び比較には不向き
長所・短所も示しましたが、例1は「現職でのパフォーマンス向上」「選抜人材の登用・育成」「仕事の適合性・品質保証の徹底」のように、現在の職務遂行能力などを上長が横並び比較・管理したいという場合に向いています。例2は「キャリア自律の推進」「全社スキルポートフォリオの把握」のように、全社規模での適材適所を高める施策に向いています。
昨今、日本企業からも「キャリア自律の推進」や「人事領域でのAI活用」を進めるためにスキル管理をしたいという相談を受けることが増えています。しかし、前述したとおり「ガチガチ定義型+定量管理型+承認型」の思想から抜けられず、テクノロジーを活用しきれない例が散見されます。

