前編はこちらから。
話者
- 武井浩三氏(ダイヤモンドメディア株式会社 代表取締役)
- 島田寛基氏(株式会社scouty 代表取締役)
- 山田裕嗣氏(EnFlow株式会社 代表取締役、一般社団法人自然経営研究会 代表理事)
ホラクラシー組織を支えるコミュニケーション
島田寛基氏(以下、島田):ホラクラシー[1]って、個人をなるべく排するフレームワークですよね。
山田裕嗣氏(以下、山田):(権限を付与されるのは個人ではなく)ロールですからね。
武井浩三氏(以下、武井):ホラクラシーにも一定のヒエラルキー構造が見られる場合があるけれど、ボスが管理するのではなくて「民主的にみんなでできるようにしようよ」という考えです。役職が固定化され過ぎると、偏りや依存が出る。逆に、情報をオープンにすると個人の権力が弱まるという現象が勝手に起こります。
2006年に刊行された書籍『奇跡の経営』で、社員に委ね、手放す経営が注目されました。しかし、これに追従しようとした経営者さんはことごとく失敗しました。権限の流動性を高めすぎて、情報を持たない人に判断させていたからです。
島田:判断するには全体が見えていないと。
武井:失敗した会社はヒエラルキーに戻しています。僕は建築や都市学からコミュニティマネジメントを学びました。そこからわかったのは、「内外で行き来できる状態」、つまり開放性が大事だということ。それはオフィスなどに対して物理的に設計するだけではなく、デジタルでもアナログでも設計できます。場が人間関係に与える影響も重要です。
あと、1on1も実施しています。これは他のメンバーが始めた取り組みですが、個人的には「人間関係を複雑にする」という効用があると思っています。透明性を高めすぎると人間の感情を吐き出す場がなくなり、鬱憤がたまることもあるので、ガス抜きにもなっているのかな、と。
島田:1on1の内容はクローズですか?
武井:そうです。ホラクラシーはコミュニケーションもオープンになっていることが前提なので、全てのやりとりが「オフィシャル」になってしまう。しかし、人間の感情はクローズドでアンオフィシャルな、もっと言えば非日常な場のほうが発露しますよね。
山田:わかりやすく言うと「飲みに行く機会を増やす」とかになりますよね。
武井:昔は気軽に飲みニケーションができましたが、ダイヤモンドメディアでもリモートワーカーや時短勤務の人が増え、全体ではやりにくくなりました。それをSlackやチャットでどうやるか、工夫を凝らしています。
島田:1on1では相手をどう選びますか?
武井:メンティーがメンターを指名する形です。逆指名ですね。
島田:メンティーとメンターという関係性があるんですね。
武井:はい。 私も1on1を受けさせてもらっています。
島田:うちにも導入したいです。ケアする側とされる側の関係性が生まれているので。僕も誰かにケアされたい(笑)。
武井:ただ、個人的な感想を言えば、かなり近い距離で仕事をしている人がメンターだと感情が邪魔することもあるな、と。「お前に言われたくない」とか感情が出てしまう(笑)。これが少し距離のある相手だと、アドバイスや指摘を自然に受けいれられたりします。うちでは今、HRに興味のあるメンバーが中心となって、メンターのための研修を行うなど、1on1自体の質の向上に取り組んでくれています。
注
[1]: ホラクラシーとは、組織の中央にいる者が権限をもって組織を決めるのではなく、ガバナンスプロセスにその権限を委譲して民主的に組織を運営する方式。業務遂行に不適合な組織構造があれば、ガバナンスプロセスの中で柔軟に変更していく。