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上司のパワハラと自殺に関する安全配慮義務違反(徳島地裁 平成30年7月9日)《後編》

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2020/09/24 06:00

 職場で上長が部下をパワーハラスメント(パワハラ)で追い込み、自殺させてしまったケースの後編です。前編では事件の経緯と裁判所の判断を紹介しましたが、この後編では、裁判所の判断の要点や、訴訟になった原因、訴訟になる前に取っておくべきだった対応を述べます。また、厚生労働省が出した指針にある、代表的なパワハラの言動の類型と、各類型に該当すると考えられる行動例/しないと考えられる行動例も示します。

前編はこちらから。

3.要点解説

(1)使用者責任について

 使用者責任は、民法715条で次のとおりに規定しています。

<民法715条>

(使用者等の責任)

 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
(ただし書きは省略)

 今回は、パワハラの有無について問題とされましたが、上記の条文を今回のケースに置き換えると、次のようになります。

 会社は、社員(今回のケースは「上司G主査、H主査」)がその事業の執行について、第三者(今回のケースは「一郎」)に加えた損害を賠償する。

 上司G主査およびH主査が一郎に対して不法行為により損害を与えたか否かにより、会社に使用者責任が問われるか否かが判断されます。

 裁判では、G主査およびH主査の指導に問題がある点は認めました。しかし、一郎のミスについての叱責であることから、業務上の指導の範囲を逸脱したものではないとし、不法行為を認めず、使用者責任も認められませんでした。

 今年6月に労働施策総合推進法が改正され、パワハラ対策の法制化がなされましたが、その「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」においても、「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない」とされています。

 したがって、業務上のミスについて叱責することは適正な指導の範囲であり、そのことをもって、パワハラに該当するとはいえません。

 しかし、叱責が不当と判断されれば、パワハラに該当するリスクがあります。前述の指針では、代表的なパワハラの言動の類型として、①身体的な攻撃、②精神的な攻撃、③人間関係からの切り離し、④過大な要求、⑤過小な要求、⑥個の侵害が示されています。

 また、各類型に対して、「該当すると考えられる例」および「該当しないと考えられる例」が次ページのとおりに例示されています。このうち、特に「該当すると考えられる例」に該当する言動をしないように注意する必要があります。

 なお、あくまで典型的な例ですので、個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もありえるとされています。

(2)安全配慮義務について

 安全配慮義務についての労働契約法の条文は次のとおりです。この「生命、身体等の安全」には、心身の健康も含まれます。

<労働契約法第5条>

(労働者の安全への配慮)

第5条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

 今回は、職場の上司であったD課長、F係長が一郎の状況を十分に認識していたにもかかわらず、適切に対応しなかったとして、安全配慮義務違反となり、債務不履行責任が認められました。特に、一郎の体重が大きく減少し、死にたがっている状況を把握しておきながら、何も対応せず、放置したことを問題視しています。

 また、社内外にハラスメントに関する相談窓口や内部通報窓口での通報や内部告発がなくても、職場内で一郎の異変には当然気づくはずであるから、通報や内部告発がないことを理由として、一郎に対して配慮しないことは不適切と判断しました。

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著者プロフィール

  • 坂本 直紀(サカモト ナオキ)

    人事コンサルタント、特定社会保険労務士、中小企業診断士、坂本直紀社会保険労務士代表社員。就業規則作成・改訂、賃金制度構築、メンタルヘルス・ハラスメント対策社内研修などを実施し、会社および社員の活力と安心のサポートを理念として、コンサルティングを行う。
    ホームページに多数の人事労務管理に関する情報、規定例、書式等を掲載中。
    主な著書に、「ストレスチェック制度 導入と実施後の実務がわかる本」(日本実業出版社)、「職場のメンタルヘルス対策の実務 第2版」(編著、民事法研究会)、『「働き方改革関連法」改正にともなう就業規則変更の実務』(清文社、共著)など。

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2020/09/24 06:00 /article/detail/2503
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