ガートナージャパンは、日本のCIOが押さえておくべき人材の新常識を発表した。その中で、日本企業の従業員の中で「今の会社で働き続けたい」という意思を持つ人の割合は世界平均より少ない、という調査結果を明らかにした。
デジタルトランスフォーメーション(DX)のプロジェクトでは、常に変化を前提にして、刻々と訪れる新しい局面に迅速に適応しながら進める能力が不可欠だ。こうした能力の確保に向けて、日本でも内製人材の強化と創出に乗り出すIT部門が増加している。しかし、今まで固有の人材戦略を手掛けたことがないIT部門では、人材の採用や定着に関する知識が少ないこともあり、人材を採用しても良い成果が得られていないケースが多く見られる。結果的に、優秀な人材を採用できてもその能力を発揮させることができなかったり、自社に合わない改革施策を導入して組織全体の士気を低下させてしまったりするなどの例が散見されている。
同社のディスティングイッシュト バイス プレジデントでガートナー フェローの足立祐子氏は「リモートワークの浸透や従業員の世代交代を契機に、人材に関する現在の常識は通用しなくなる。CIOは、就業意欲、働き方、スキル習得などに関する知識を常に更新し、時流に即した人材戦略と施策を進めていくことが重要」と述べている。
同社は人材に関する4つの誤った考えと新たな常識を、以下のように挙げた。
今の会社で働き続けたいという意思はあまりない
日本企業の従業員 (主に日本人) の忠誠心や帰属意識の強さは、長い間、日本企業の成長力の源泉として語られてきた。現在でも、若手従業員を除く大半の従業員に対して同じように考える経営層は少なくないと考えられる。しかし、ガートナーが世界で実施した調査において、「今の会社で働き続けたい」と考えているかを尋ねたところ、「今の会社で働き続けたい」と考えている人の割合が世界では平均39%であるのに対し、日本では35.8%と、世界平均を下回っていることが明らかになった。
Z世代は、業務とプライベートの境界線が曖昧である
経営層の多くは、自分たちと「若い世代」を区別し、若者はプライベートな時間を重視し残業を嫌う傾向が強い、という固定観念を持っている。しかし、2018年以降、企業にはミレニアル世代とZ世代というかなり異なる2種類の「若い世代」が存在するようになっており、これまでの理解が必ずしも当てはまらなくなってきている。個人差はあるものの、ミレニアル世代 (1980~1994年生まれ) は、比較的、ワークライフバランスを重視する傾向が強い一方、Z世代 (1995年以降の生まれ) は、ワークライフバランスを重視する姿勢はミレニアル世代よりも圧倒的に低く、むしろ業務を通じて経験の幅を広げ、自己成長を実現することに期待を示す傾向が強いことが、同社の調査から明らかになっている。 #### ハイパフォーマーの定着には、待遇よりも受け入れ側の能力が重要である
入社の決め手は「給与」と「企業の成長性と安定性」が常に上位を占めている一方で、退職の決め手としては「同僚の能力」「マネージャーの能力」「人事管理」など、人に関係する項目が重視されることが明らかになっている。このことは、給与や処遇はハイパフォーマーの獲得には有効であっても定着には効果がないことを示している。つまり、受け入れ側の従業員も高い能力を持ち、ハイパフォーマーが活躍できる組織文化が醸成されていなければ、どれだけ厚遇してもハイパフォーマーが退職するリスクは抑制できない。
スキル予測に基づいて習得したスキルの大半は、実際には使われない
同社が実施した大規模な調査では、予測に基づいて習得したスキルのうち50%以上は使われておらず、むしろ、予測せずに都度のニーズに応じてスキル教育を実施した方が、活用されるスキルは多かったという結果になった。教育を重視するCIOは、将来必要になるスキルを予測したいと考えることが多いが、技術の進化が激しく、さらに経営環境が不透明な現代において、中期的に必要になるスキルをCIOがすべて確実に予測するのは不可能だ。