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人事労務事件簿 | #16

試用期間中の解雇は性急であり、是認できないと判断(東京地裁 平成21年1月30日)

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 多くの企業では、社員を迎え入れるときに「試用期間」を設けています。この期間の働きや行動によって、このまま正式に社員として雇用するかを判断するわけですが、雇用しない(解雇する)場合には当然ながら、妥当な理由が必要になります。今回紹介するのは、まさに試用期間中に解雇通告を受けた社員が、解雇に妥当性がなく無効であることを主張して会社と争ったケースです。果たして、裁判所は試用期間について、どのような考え方・線引きを示したのでしょうか。

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1. 事件の概要

 本件は、原告(以下「X」)が被告(以下「A社」)に対し、A社がXにした本件解雇が無効である旨を主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めた事件です。

(1)本件雇用契約の締結

 Xは、B社に勤務中の平成19年1月頃からいわゆるステップアップを考えるようになり、転職サイトにも掲載していたところ、同年3月中旬、同サイトでXを知ったA社の担当者がXに面接を求めてきたので、同月19日、A社を訪れました。

 Xは、A社の採用担当者との面接の際には、A社がXに期待することとして、B社での実績や経験を生かして営業基盤の底上げ、顧客の拡大をしてほしいと告げられました。営業ノルマの話は一切されませんでした。

 採用担当者との面接後、A社の社長が登場し、Xが他の証券会社への採用面接が進んでいることに触れると、社長はいきなり「何だ、うちにこないのか?」と言いました。

 Xが「来るも来ないも、まだお会いしたばかりで、私がどれくらいの者かも分からないでしょうし……」と告げると、社長は「俺は君と話して分かるよ。それに職務経歴書やメールの文章も見た。すぐうちに入社しなさい」とその場での判断を迫ってきました。

 Xもそこまで言われて光栄に感じ、A社への入社の決意を述べました。

 Xは、平成19年5月20日にB社を退職し、同月21日にA社に期間の定めのない雇用契約により、営業職の正社員として雇用されました。

(2)Xの賃金、試用期間、肩書き

 Xの賃金は、毎月15日締めの20日払いであり、毎月の給与は65万円、賞与は毎年6月と12月にそれぞれ105万円(ただし賞与規程に基づいて算出された額がこれを上回るときにはその金額)とされました。

 Xの報酬額については、Xの勤務態度や目標に対する業績が著しく悪い場合には、本件雇用契約締結後6ヵ月を経過した後に見直すことがあると定めています。

 本件雇用契約書は、Xの試用期間を平成19年6月21日から6ヵ月間としています。

 なお、Xの所属は営業担当部署である「ウエルスマネージメント本部」で、肩書は課長とされました。

(3)Xの営業成績

 Xは、平成19年5月21日から同年9月3日までA社にて勤務しましたが、この期間のXの手数料収入は、同年6月は63万8000円、同年7月は41万2000円、同年8月は11万4000円。3ヵ月間の平均額は38万8000円でした。

 Xの預かり資産は、平成19年6月は2200万円、同年7月は3100万円、および同年8月は3800万円でした。

(4)上司からの叱責

 Xは、平成19年7月上旬以降、ウエルスマネージメント部長や営業担当役員Dから、「社長からペースが遅いとの指摘が出ている」「このままでは給料の見直しも考えざるを得ない」と言われました。

 しかし、A社からノルマや必達数字を示されたことはありませんでした。

(5)B社からの通告

 B社は、Xに対し、平成19年7月12日付「当社顧客への投資勧誘行為の停止要求について」と題する書面により、XがB社の顧客に対して行っている投資勧誘の電話等は、退職時の誓約に違反するのでこれを停止するよう求めるとともに、繰り返される場合には損害賠償請求の提訴の用意がある旨通告しました。

 Xは、B社の手前、B社の顧客には遠慮しながら投資勧誘を行うことを余儀なくされました。

(6)その後のXの営業活動

 Xは、日々の業務内容を営業日誌に記録していました。営業日誌からは、Xが地道に営業活動を行っていたことがうかがわれます。

(7)「給与減額での解雇猶予」か「解雇受諾」のいずれかの選択を迫られる

 Xは、平成19年8月27日、C役員及びD役員から呼び出され、成績不振が理由で解雇の方向に話が進んでいることを告げられました。

 Xは驚き、営業開始後まだ3ヵ月であり、あまりにも性急であると訴え、せめて試用期間の6ヵ月の実績を見てほしいこと、自分の採用を決めた社長と直接面談したいことを申し入れました。

 翌28日C役員から回答があり、給与を65万円から25万円に減額した上であと1ヵ月だけ猶予か、それが嫌なら解雇を受諾すること、社長は面談しないことが告げられました。その際、C役員は、「9月に頑張って成果を上げれば、10月からの給料は見直してまた上げてもらえるのではないか」と話しました。

 Xは給与減額の上1ヵ月解雇猶予を選択しました。

 XはC役員に対し、「これまでの実績だけでも、他の入社半年ないし8ヵ月の従業員の営業成績と比べても遜色はないのに、なぜ自分だけが解雇なのか」と尋ねたところ、「君は期待度が高すぎた。だから給与も高い」と述べました。

(8)解雇

 Xは、翌30日朝、C役員から、月給を65万円から25万円へ変更する旨の給与変更合意書への署名を求められましたが、署名捺印を断りました。

 同日夜、C役員に対し、改めて試用期間残り3ヵ月について従前どおりの待遇を求めました。

 A社は、平成19年9月3日、「営業担当として採用したが、営業担当としての資質に欠けるので、就業規則19条2項(試用期間中に不適と認められるときの解雇)により解雇する」として、Xを同日付で解雇しました。

 Xは、顧客との連絡や説明の機会を確保するため、「夕方まで時間がほしい」とA社に願い出ましたが、A社は、Xに対して荷物を整理してすぐに出て行くようにと申し渡し、顧客への説明等は会社側で考えるというものでした。

 当時の相場状況は、アメリカのサブプライム住宅ローン問題という外的要因により世界的な同時株安の状態にあり、個人投資家へ新規ないし変更の投資活動を呼びかけるのは極めて困難な状況にありました。

(9)就業規則および給与規定

 就業規則19条には以下の規定があります。

 会社は、新たな従業員として採用したものに対し6ヵ月の試用期間を経て正従業員に任用する。ただし、特別の事由のある場合は、試用期間を短縮し、または試用期間を経ないで正従業員に任用することがある。(1項)

 会社は試用期間終了までに不適と認められたときは、解雇することができる。(2項)

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この記事の著者

坂本 直紀(サカモト ナオキ)

人事コンサルタント、特定社会保険労務士、中小企業診断士、坂本直紀社会保険労務士代表社員。就業規則作成・改訂、賃金制度構築、メンタルヘルス・ハラスメント対策社内研修などを実施し、会社および社員の活力と安心のサポートを理念として、コンサルティングを行う。 ホームページに多数の人事労務管理に関する情報、規定例、...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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