障害者雇用促進法とは
障害者雇用促進法は、障害者の職業の安定を図ることを目的とした法律です。障害のある方が自立することを促進するための職業リハビリテーションの推進や差別の禁止や合理的配慮の提供などを定めています[1]。
最近では、障害者が働きやすい環境を作り、また、全ての労働者にとって働きやすい環境を目指すことが重要であるという考えの下に改正されています[2]。障害のある方の就労支援の立場から、障害のある方が働きやすい職場環境は、周囲の従業員も働きやすい職場環境であると感じます。
注
[1]: 公益財団法人日本ケアフィット共育機構「企業の合理的配慮提供の義務に関係する法律・条例」
[2]: 厚生労働省「令和元年障害者雇用促進法の改正について」
進んでいく障害者雇用
厚生労働省「令和3年 障害者雇用状況の集計結果」によると民間企業等における雇用障害者数は年々増加しています。2016年4月より、精神障害・発達障害のある方も法定雇用率の算定基礎の対象となりました。今後も雇用障害者数は増加するものと考えられています。企業においてもさらなる対応力が求められることになります。
数値的な指標である法定雇用率だけに着目するのではなく、働きやすさ、働きがいなどの働く「質」の部分について、これからさらに注目されていくことになるでしょう。企業側は、法定雇用率を達成するために雇用することをゴールとするのではなく、職場の「働きやすさ」や「働きがい」(仕事の達成感や職場での一体感を得ることなど)への取り組みが求められます。
職場の対応力を上げる
採用前には、「合理的配慮[3]」についてイメージしておくとよいでしょう。障害者差別解消法や障害者雇用促進法、合理的配慮の具体的事例などを職場に周知して、職場で配慮の内容についてイメージし、実際の場面で対応しようと思える気持ちの準備をします。このときには、合理的配慮の具体的事例[4]などが参考になります。
採用時には、合理的配慮を具体的に検討します。配慮の内容は、障害のある方から意思の表明があり、ニーズが明らかになった後、障害のある方との建設的な対話を通して、社会的障壁の除去のために必要かつ合理的なものにします。ただし、配慮する側の負担が過重でないものとし、過重な負担がかかる場合には別の方法を、必要かつ合理的な範囲で柔軟に検討します。
また、建設的な対話とは、話し合いを重ね、双方の合意が得られる落としどころを見つけ、変更や調整を行うことです。建設的な対話を続けることによって、次のことが得られていきます。
- お互いが自分自身のことをよく知ることができる
- 双方の理解を深められる
- 置かれている環境における自分の立ち位置を把握できる
- 新たな気づき、発想が得られる
- 信頼関係が構築される
建設的な対話を丁寧に行うことで、適切かつ合理的配慮が提供され、障害のある方が持っている能力を活かして働ける環境が構築されます。さらに、建設的な対話は職場の対応力を高めます。職場の対応力が高まることで、職場が抱えている効率低下や離職のリスクマネジメントが行える上、能力開発や人材育成なども促進されます。
注
[3]: 障害のある人から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応すること(事業者においては、対応に努めること)が求められるもの。(内閣府「『合理的配慮』を知っていますか?」より ※PDF)
[4]: 内閣府「合理的配慮指針事例集」
働きやすさが職場定着に結びつく
配慮する側の一般的な配慮だけでは、配慮が必要な側としては不十分である可能性があります。合理的配慮を提供するためには、障害のある従業員一人ひとりと面談を行い、必要な配慮を引き出します。障害のある従業員は社員の一員であり、合理的配慮を考えることは、その人がその人らしく組織で能力の発揮することを考えることと同義です。障害のある従業員も、社内で行われた調整をフィードバックされることで、自分自身が社内でどのように能力を発揮できるかを把握しやすくなります。
さらに、自己理解が促進されることは、所属意識の向上や自立した考えを持つきっかけになり、職場定着につながります。
なお、合理的配慮の提供においては、周りでいっしょに働く従業員の働きやすさも考えなければなりません。従業員への事前周知、建設的な対話、職場の調整と共有のプロセスは、大変労力のかかる作業に見えるかもしれません。しかしながら、職場全体の働きやすさに着目して調整を行っていくため、結果的に職場全体にとってメリットとなることも多いのです。従業員一人ひとりが職場の働きやすさへの意識を持ち、気づきや具体的提案を通してコミュニケーションが活発になり、職場やチームへの所属意識が高まります。