帝国データバンク(TDB)は、2022年度の雇用動向に関する企業の意識について、調査を実施した。
近年の有効求人倍率は、2021年5月を境に上昇傾向となり、2022年1月時点では1.27倍まで上昇。一方、2022年2月の正社員の人手不足割合は47.0%(前月比0.8ポイント減)、非正社員も27.5%(同0.5ポイント減)とそれぞれ低下した。今後も、新型コロナウイルスやウクライナ情勢、原材料価格の高騰、賃金動向などを背景に、企業の雇用動向は不透明感が高まっている。
同調査は、これらの動向を受けてTDB景気動向調査2022年2月調査とともに行われた。
調査結果は以下のとおり。
正社員の採用予定がある企業は62.2%、採用が増加する企業も4年ぶりの高水準
2022年度(2022年4月~2023年3月入社)の正社員の採用状況について尋ねたところ、「採用予定がある(『増加する』『変わらない』『減少する』の合計)」と回答した企業は、前回調査(2021年2月実施)から6.9ポイント増の62.2%となり、4年ぶりに上昇した。また、採用予定がある企業のうち、採用人数が「増加する」企業も25.5%(前年比5.5ポイント増)となり、4年ぶりの水準に上昇。4社に1社では増加する見通しとなっている。
一方で、採用人数が「減少する」企業は6.9%(同1.8ポイント減)、「採用予定はない」企業は27.4%(同5.1ポイント減)とそれぞれ低下した。
採用人数が「増加する」とした企業からは、以下のような声があがった。
- 「新卒入社10名を目標とするとともに、中途採用についても新拠点開設にともない積極的に実施の予定」(建設機械器具賃貸)
- 「外国人実習生が減少したので雇用を増やしたい」(製缶板金)
- 「人員不足ではないが、社員構成も高齢化しており、世代交代のための社員募集はしている」(鉄骨工事)
- 「運送業界はドライバー不足と2024年問題を抱えているため、積極的に雇用していきたい」(一般貨物自動車運送)
非正社員を採用する予定の企業は46.3%、「飲食店」は半数近くで増加する見込み
2022年度の非正社員の採用状況について尋ねたところ、「採用予定がある(『増加する』『変わらない』『減少する』の合計)と回答した企業は46.3%(前年比9.5ポイント増)と上昇した。また、採用人数が増加する企業は12.5%(同4.3ポイント増)と、3年ぶりに1割台にまで上昇した。
一方、採用人数が減少する企業は5.3%(同1.4ポイント減)、採用予定がない企業は41.1%(同7.1ポイント減)とそれぞれ低下した。
業種別にみると、採用予定がある企業は「飲食店」(85.4%)や「教育サービス」(84.6%)、「各種商品小売」(84.4%)など、個人消費関連の業種で高い傾向となっている。また、採用人数が「増加する」企業でも、「飲食店」が47.1%と唯一の4割台になった。
- 「製塩、塩関連の食品プロデュース販売、キッチンカー、自販機といった新規事業をスタートさせ、それにともない優秀な戦力を雇用したいと考えている」(酒場、ビアホール)
- 「高校新卒は2022年も継続し、将来の人手不足に備えるためにも採用は継続する予定。一方、パート・アルバイトの採用は年々厳しくなっており、この傾向は続くと判断している。様々な働き方のニーズに応えるべく、時間、場所、内容など様々な働き方を提示していく」(喫茶店)
企業が求める職種は、販売・営業職が4割超 求める職種も業種によっては多様化
どのような職種の人材を求めているか企業に尋ねたところ、販売、営業職などの「販売の職業」(41.7%)がトップとなった。次いで、開発・製造技術者などの「専門的・技術的職業」(34.3%)、役員・管理職などの「マネジメント職」(20.9%)、一般事務員などの「事務的職業」(20.0%)が続いた。
求める職種の数をみると、1社あたり平均1.95職種となった。業種別にみると、鉄スクラップ卸売などの「再生資源卸売」が2.60でトップ。鉄スクラップ卸売を営む企業の担当者からは、「鉄スクラップを運搬するドライバーの高齢化や、生産工程の職業などが不足しており、積極的に採用を進めている」との声があがったという。
10業界でみると、「製造」が1社あたり平均で2.18となっており、求める職種に多様化の傾向がある。求める職種が多い企業からは、以下のような声があがっている。
- 「事業継承の最中であり、幅広く人材を欲しいが適切な人材はなかなか見当たらない。また、即戦力を期待するので中途採用を模索している」(医療用計測器製造)
- 「製造プロセスの自動化を進めるうえで、IT、DXなどの技術者を中小企業でも求めている。優秀なIT技術者は高サラリーでも採用したいが、実際出来るのかわからない」(プラスチック成形材料製造)
- 「生産が増加すれば人員も必要となってくるが、不透明感がぬぐえない。生産が増加した場合、機械化が進められれば、人員増加の必要はない。ただし、作業員よりも、管理部門、生産技術・管理部門、営業部門、事務員などは良い人材がいればどんどん採用したい。新卒(大卒)についても採用していきたい」(自動車部分品・付属品製造)
- 「時間給の梱包などの作業員、フォークリフトドライバーの人材確保が厳しい状況が続いている。物流・物量の変動が大きく、人材確保を進めれば収益を圧迫する一方、雇用を止めると作業量がオーバーし既存社員の時間外労働が増加する。荷主へも迷惑をかけてしまう非常に難しい状況」(港湾運送)
2022年度の雇用動向については、正社員の「採用予定がある」および採用人数が「増加する」企業はそれぞれ上昇。特に、採用人数が「増加する」割合は、新型コロナウイルスの感染が拡大する前の2018年度以来の水準まで回復した。規模別では「採用予定がある」割合は大企業の84.5%、中小企業も57.8%となり、2021年度から大きく上昇している。
企業からの意見をみると、社員の高齢化や2024年問題、海外技能実習生の入国制限の影響、DXなどが、雇用を積極的にさせる要因にあげられている。一方、今後はウクライナ情勢や新型コロナウイルスの影響を受け、原油や原材料価格の上昇が一段と進むと見られている。そうした中、原材料価格の高騰で国内景気や生産活動が大きく下押しされれば、雇用動向も再び落ち込む懸念があるとしている。
大手金融機関などでは、既存業務の自動化によって、事務職を営業職に転換させる動きも活発になっている。少子高齢化で労働人口の減少が見込まれ、先行きへの不透明感が増大するなか、企業が事業活動を継続・発展させていくためには、従業員の多様化・多能工化、DX、従業員のリスキリングなどの取り組みがより重要になると同社は述べている。
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