帝国データバンクは、2021年度の賃金動向に関する企業の意識について調査を実施した。本調査は、TDB景気動向調査2021年1月調査とともに行った。調査期間は2021年1月18日~31日、調査対象は全国2万3695社で、有効回答企業数は1万1441社(回答率48.3%)。なお、賃金に関する調査は2006年1月以降、毎年1月に実施し、今回で16回目。
2021年度の企業の賃金動向について、正社員の賃金改善(ベースアップや賞与、一時金の引き上げ)が「ある」と見込む企業は42.0%となり、2014年度見込み(46.4%)以来の水準まで落ち込んだ。一方、賃金改善が「ない」と見込む企業は28.0%となり、「分からない」とする企業も30.0%と5年ぶりに3割台となり、総じて2021年度の賃金改善には慎重な見方をしている様子がうかがえる。
2021年度の賃金改善見込みを規模別でみると、大企業は38.2%となり、中小企業(42.9%)を下回った。業界別では、依然として人手不足が顕著な「建設」の47.8%が最も高い。また、旅行代理店や旅客自動車運送など観光関連業種を含む「運輸・倉庫」(36.7%)では18.5ポイント減となるなど、賃金改善見込みは大きく減少した。
2021年度の正社員における賃金改善の具体的内容は、「ベースアップ」が35.9%で、2020年度見込みから9.3ポイントの大幅減だった。国内景気の回復とともに、2018年度見込みまでは増加傾向であったものの、2021年度見込みでは大幅に落ち込む格好となった。企業からは、現状の厳しさに関する声が多くあげられていた。
2021年度の賃金を改善する理由は、「労働力の定着・確保」(78.7%)がトップとなった。前回調査(80.6%、2020年1月)より減少したものの、人材の定着・確保のために賃上げを実施する傾向は引き続き強い。賃金を改善しない理由では、「新型コロナによる自社の業績低迷」が69.4%となり7割近くにのぼった
2021年度の賃金の変化を雇用契約別に尋ねたところ、賃金が「増加する」割合は「フルタイム正社員」が36.9%で最も高かった。次いで「外国人労働者」が18.9%。「派遣労働者」は7.9%となり、1割を下回っている。企業からは、さまざまな要因から賃金の見直しを行っているとの意見が多く見られた。
2021年度の総人件費は、2020年度と比較して「増加[1]」する企業は54.2%と前回調査(2020年1月調査)から14.7ポイントの大幅減となった。2020年度見込みまで7割前後となっていた総人件費の増加傾向は、新型コロナウイルスを主因とする企業業績の低迷や先行きの不透明感などによって急激に鈍化する結果となった。総人件費増加率は平均1.54ポイントとなり、2016年以降で最も低くなった。
注
[1]: 「増加」(「減少」)は、「10%以上増加(減少)」「5%以上10%未満増加(減少)」「3%以上5%未満増加(減少)」「1%以上3%未満増加(減少)」の合計。
業界別では、「建設」(60.1%)が唯一6割超となった。次いで「サービス」が56.0%で続き、そのなかでも特に「医療・福祉・保健衛生」(72.8%)や「情報サービス」(69.8%)、「メンテナンス・警備・検査」(64.1%)のような人手不足が目立つ業種では総人件費を増加させる傾向がみられた。
同調査では、新型コロナウイルスの影響が主因となり賃金改善の動きは鈍化する結果となったが、賃金改善をする理由では「労働力の定着・確保」とする傾向は変わっていなかった。そのため、直近こそ割合は低下しているものの人手不足が慢性化しているなかで、その解消に向けた賃金改善の動きは今後も続くと見られる、同社はと述べている。