佐々木 基弘(ささき もとひろ)氏
株式会社ドコモgacco 代表取締役社長CEO
株式会社NTTドコモ入社後、営業部門、経営企画部門、ドコモショップ店長を経て、新規事業開発部門にて、デジタルコンテンツサービス(dTV、dマガジンなど)の事業戦略に従事。その後人事部門にて、社員の配置や昇格運用、中途スキル採用・スペシャリスト採用の立ち上げに従事。2021年より現職。
南 圭(みなみ けい)氏
株式会社ドコモgacco 執行役員CLO(チーフ・ラーニング・オフィサー)
株式会社NTTドコモ入社後、ネットワーク部門、グローバル部門等を経て、経営企画部門にて中期戦略策定・中期事業計画策定、非通信事業の事業拡大に従事。その後新規事業開発部門にて、教育系サービス(gacco、dキッズなど)の戦略策定・事業計画策定などに従事。2018年より現職。
OJTでは学べないスキル・知識がある
人材育成は、いつの時代も企業が抱える課題の一つであるが、社会やビジネスが急速に変化している近年は、その重要性が著しく高まっている。代表的なところを挙げれば、DX人材の育成だろう。ビジネスの優位性を確保するためには、デジタル技術の活用・応用が欠かせなくなる中、全従業員を挙げてITリテラシーの向上に努める動きが顕著だ。
また、コロナ禍をきっかけに、人々の働き方や働くことへの意識・価値観が大きく変化したことは、マネジメント方法の抜本的な切り替えを企業に迫っている。リーダーやマネージャーや自身の成功体験をメンバーに押しつけ働かせるのではなく、一人ひとりの個性を認め、強みを最大限活かさなければならない。同時に、心理的安全性のある環境を部署・チームに提供する必要もある。
これらを実践するときの課題は、OJT主体の教育では難しいことだ。これからDXに取り組む企業では、日常業務の中でITリテラシーを高めることはできないし、マネジメントスキルは現場の業務スキルの延長線上にはない。つまり、共に別途学習が必要である。ところが、日本は社会人の学び直しの意識が国際的に見ても低い[1]。そのため、この課題の克服はより困難といえる。
この課題を強く意識し、解決を支援したいとeラーニングサービス「gacco」を提供しているのが、ドコモgaccoである。
リーダーの育成については、同社 代表取締役社長の佐々木基弘氏は次のように語る。
「ビジネスにおいて、OJTが重要なのは言うまでもありません。ビジネスリーダーになるための7:2:1の法則(ビジネスリーダーの能力開発の役に立った出来事・経験は「仕事での経験7割、上司の薫陶2割、研修・読書1割」)もあります。ただ、リーダーシップ開発における経験学習モデルには、内省的観察(省察)と抽象的概念化という自分と向き合うプロセスがあり、そこはOJTだけではどうしても突破できない部分です。この省察・概念化のプロセスに『教養』や『リベラルアーツ』が必要なのではないかと考えています」(佐々木氏)
ドコモgaccoでは、さらに「ジョブ型雇用の広がりに伴う自律的な学習」「ミドル層(40代・50代)の活性化」「人生100年時代におけるキャリア開発」や、テレワークの普及でより顕在化した「オンラインコミュニケーション」「ワークライフバランス」といった課題に対しても、eラーニングというアプローチで取り組む。特に、人生100年時代におけるキャリア開発については、佐々木氏には個人的に思うところがあるという。
「60歳で定年退職だとすると、残り40年、生活していくための資金を確保していく必要があります。そのためにも、誰もが常に自分らしいキャリア開発をしていなければならないという点に、強い課題感を持っています」(佐々木氏)
ドコモgaccoとしても、人生100年時代ですでに人生の3ステージ(教育・仕事・引退)モデルは崩壊していることを前提に、「人生100年時代を自分らしく働き、生きていくために学び続ける環境づくりを」提供していくと、佐々木氏は強調した。
注
[1]: 内閣府「平成30年度 年次経済財政報告」(2020年)によると、25〜64歳のうち大学などの教育機関で学ぶ人の割合が、OECD平均が10.2%のところ、日本は2.4%にとどまった。
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リーダーシップやイノベーションに必須の教養が身に付く
2009年にサービスローンチし、現在約100万会員を抱えるというgacco。そのサービスには次の3つがある。
- gacco MOOC
- 個人向け・法人向け。大学教授をはじめとする一流の講師陣に本格的な講義をオンラインで学べる日本最大のMOOC(動画学習)サービス。受講は無料。年間約100講座が提供される。講座は社会科学や自然科学、人文科学といった教養系のほか、ネットワークセキュリティやAIといったITリテラシー、統計学やクリティカルシンキング、イノベーションなどのビジネススキル系まで幅広い。
- gacco Training
- 法人向け。ビジネスマナーからデータサイエンス、DX、情報セキュリティ、マネジメント、コンプライアンス、さらに職種別スキル(営業、マーケティング、経営戦略など)まで、ビジネスに直結する注目のスキルを学べるeラーニングコンテンツを、オンラインで提供する。利用は有料。
- gacco ASP
- 法人向け。NTTドコモの動画配信サーバーを利用したオンライン動画研修プラットフォーム。企業が独自に制作した動画研修コンテンツをアップロードし、従業員に見てもらうことができる。課題や確認テストなどにより従業員の理解度を確認でき、保存容量は無制限で定額制(動画研修コンテンツをいくらアップロードしても同じ金額)。
gacco Trainingとgacco ASPでは、受講管理などを行えるeラーニングシステムも利用できる。価格は月額550円/ID(税込み)からと低く設定されており、利用を始めやすい。gacco MOOCの講座もシームレスに受講できることから、リーダーシップ開発に必要な「教養」を身に付けることも含めて、トータルで従業員に受講してもらうことができる。
この教養を身に付ける講座も受講できるのは、gaccoならではの差異化点だという南氏。ただし、そのためのコストがかからないことも必須条件だと付け加える。
「日々の業務にすぐに役立つ講座はROI(投資対効果)が分かりやすいため、多少のコストも許容できるが、リーダーシップ開発に必要な教養はROIがしばらく先にならないと判明せず、企業としてはコストをかけづらいことがこれまでの取り組みの中で分かってきました」(南氏)
gaccoの場合、教養を身に付けられるgacco MOOCの受講は無料なので、コストの問題はない。
さらに、佐々木氏いわく、教養のための講座を受けられることについては3つのメリットがある。
1つ目は、従業員がジョブ型雇用へ対応することにおいてだ。メンバーシップ型雇用だったころには、人事が階層型研修などでいろいろ教えてくれていたのが、ジョブ型雇用になれば自発的に学んでいくことを求められるようになる。そのときに必要なのは、外発的ではなく内発的な動機付け。その源泉は知的好奇心や自律性だといわれているので、教養や仕事に直結しない知識も学べるようにすることには大きな意味があるのだ。
2つ目は、40代・50代のミドル世代の教育においてである。ミドル世代の教育というとリスキリングがまず思い浮かぶが、退職後のキャリアを考えてもらうことも課題になっているようだ。ドコモgaccoには「会社が提供するビジネススキルだけだと、どうしてもキャリアの幅が広がっていかない。そこで教養を学ばせたい」という声が、特に金融業界から届いているという。
3つ目は、イノベーションを企業にもたらすことにおいてだ。教養を身に付けることは、いわゆる“両利きの経営”でいうところの「知の探索」に当たるといい、イノベーションの源泉をつくる。一方で、学びが既存のビジネスを突き詰める「知の深化」に偏ると、イノベーションが枯渇するサクセストラップ(成功の罠)に陥ってしまう。両利きの経営では知の探索と知の深化のバランスが重要だとされており、個人ではビジネススキルを高めるのと並行して、教養を身に付けていくことが肝要といえる。
ここまで教養の重要さばかりを強調してきたが、gaccoが提供する講座には教養以外にも多くの企業を引きつけているものがもちろんある。例えば、gacco Trainingで提供されている「データの活用・分析スキル育成プログラム」という、データサイエンスの基礎からPythonやRといった分析に用いるプログラミング言語の入門、分析プロジェクトの進め方までをカバーする講座群はその一つだ。
「大手自動車会社や大手ガス会社、大手地銀などをはじめとする多くの企業が受講するほか、NTTグループ内各社においても数万人に受講していただいております」(南氏)
そのほか、システムのセキュリティと安定性が高いこともgaccoの特徴だと南氏は言う。これは、約100万会員が利用するgaccoを運用している実績のあるシステムを活用しているためで、大手コンサルティングファームなどの従業員1万人規模の大手企業での導入実績も数多くある。企業が独自に制作した動画研修コンテンツによるeラーニングも安心して運用できるだろう。
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学びをより促進し、確実で戦略的なものにする今後のgacco
最後に、佐々木氏と南氏にこれからのgaccoについて尋ねたところ、まず「スキルアップ講座 By Myself」(仮称)が紹介された。教養は学ぶのに時間がかかり、面倒なので、自分の仕事に関係ないという人も気軽に教養を学び始められるよう、ビジネススキルを学びながら教養も身に付く「会計×世界史」や「歴史×マネジメント」といった掛け合わせの講座を提供していくという。
次に、まだ構想段階ではあるが、「反転学習」のオンライン版を計画している。反転学習とは、授業の前に各自で学び(インプット)、授業では学んだことをお互いに述べたり議論したり(アウトプット)する学習方法のこと。学習の意欲や効率が高まり、学んだことがしっかり定着するといったメリットがある。gaccoではこれまで対面で実施してきたが、これからSlackやZoomといったツールを使い、インプットだけでなくアウトプットもオンラインで学習できるようにする。
「ドコモgaccoでは『知的好奇心』『自律性』『入出力経験』の3つの組み合わせを、自分で学び続けるためのラーニングデザインと定義しています。インプットと合わせてアウトプットする経験は、持続的に学ぶきっかけになりますから、そのための場を提供したいと考えています」(佐々木氏)
また、eラーニングシステムの追加機能として、gacco MOOCでの受講状況も人事などが管理できるようにすると南氏。これにより、教養の習得をリーダーシップ開発などの人材育成の一環として実施しやすくなるだろう。
「雇用がジョブ型に変わっていき、従業員のリスキリングを行っていかなければならないと考えている人事の皆様のニーズにしっかり応え、従業員が自律的に学ぶことができ、知の探索によりイノベーションを起こす支援をしていきます。また、NTTドコモグループはこれまで、iモードでデジタルコンテンツを民主化し、おサイフケータイでキャッシュレスを民主化してきました。そのグループ会社である我々は、現在gaccoをご利用中の約100万会員を500万、1000万会員の規模にしていき、より多くの人に学べる環境を提供していきたいと考えています」(佐々木氏)
なお、NTTグループでは、学習者が時間や距離の制約なく、⾃分に合った学びを快適に受けられる世界を目指し、「Remote World For Education」というブランドを展開している。本稿で紹介したgaccoのように、ICTを活用し、誰もが⾃分らしく学べる環境の構築につながる様々なソリューションを展開しており、詳しくは、下記のリンクから確認いただきたい。
Remote World For Educationのサイトへ
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- 受講は登録から14日間可能です
- 受講登録は2023年3月31日まで可能です