100人の壁をひも解くと「7つの事象」が見えてくる
企業の従業員数が100人前後を迎えるときに直面するといわれている「100人の壁」。未然に防ぐことは簡単ではなく、「あれ? 何か最近うまくいかないな」と感じたときに初めて100人の壁を実感する企業も多いようです。
企業が100人の壁に突き当たっているとき、組織では何が起こっているのでしょうか。
100人の壁とは、複数の事象が重なり合った結果です。ひも解いていくと、次の7つの事象のうち複数が同時に起きていると考えられます。
- 採用数に対して、応募者数が追いつかない
- 採用要件が厳しく、内定出しに難航する
- 採用要件が甘く、社内で確執が生まれる
- 「自律性」をうたうことで育成を放棄している
- 新メンバーの早期離職やハイパフォーマーの離職が相次ぐ
- 会社としての意思決定が遅い
- 縦割り感が高まり、トップや横とのつながりが薄れている
これら1つひとつの事象について、詳しく見ていきましょう。あなたの会社に1つでも当てはまる事象があれば、それは100人の壁の予兆かもしれません。
「7つの事象」とは
1. 採用数に対して、応募者数が追いつかない
従業員数が100人を超えようとしている企業は、いわゆる成長中の企業です。組織の拡大を目指してより多くの採用者を確保する必要があり、求人数は急増します。
しかし、100人前後の規模の会社は、どうしても応募者が集まりにくい側面があります。自律的な働き方を得意とする人にとっては、100人前後の企業はやや大きすぎて興味を持ちづらく、安定志向のキャリアを望む人にとっては、小さすぎて避けられてしまうからです。
さらに、100人規模の企業では、採用担当者の人数やリソースが限られていることが多いでしょう。そのため、従来の採用体制では、採用したい数に対して応募者の母集団を形成できないという課題が生じます。
2. 採用要件が厳しく、内定出しに難航する
仮に応募者が集まっても、内定出しの意思決定が難航し、採用ペースが追いつかないのもよく見られる事象です。採用市場において、100人規模の企業が求めがちな即戦力を持った人材は限られています。それにもかかわらず、即戦力に固執した採用要件を設定してしまい、内定を出しにくくなっている企業は珍しくありません。採用エージェントからは、「なかなか内定が出ないので、紹介するのが難しい企業」と認識されてしまい、紹介の優先順位を下げられてしまうこともあります。
3. 採用要件が甘く、社内で確執が生まれる
一方で、採用要件を甘くしすぎても別の問題が生じます。採用要件を緩和することで一時的に採用数を増やすことはできても、社内で確執が生まれる可能性があるからです。具体的には、2パターンの確執が考えられます。
1つ目は、多少能力や経験が劣っていてもとりあえず採用してしまったパターンです。現場が育成の負担を感じることで、人事・経営層に対する不満が高まり、歓迎されない新メンバーと現場との間に確執が生まれる恐れがあります。
もう1つは、採用時に前職給与を優先し、既存社員を上回る報酬で採用するパターンです。新メンバーの報酬が既存社員の報酬を上回っていることが社内に知られた場合、既存社員の直接的な不満につながります。「がんばって成果を上げ続けてきた自分より、新しく入ってきた人のほうが給与が高い」と思った既存社員が、「自分たちは冷遇されている」「これまで搾取されてきたのでは」と疑心暗鬼になってしまうのは無理のないことです。
4.「自律性」をうたうことで育成を放棄している
100人前後の企業では、社内に育成の経験や適性のある人が少ないため、体系的な教育ができる人はほとんどいません。また、既存社員は仕事のやり方を自身で切り拓ける、いわゆる野武士的な能力開発・業務遂行スタイルの人が多いでしょう。
しかし、組織が「自律的な学習を求める」という言葉に逃げ、新規メンバーに自己学習を強いる姿勢を取ることは問題です。「見て覚えろ」「自分で考えろ」といった言葉はもっともらしく感じられますが、それでは育成ではなく選抜になってしまいます。
自律的な学習を勧めることは問題ないのですが、育成を放棄してしまっては、組織の成長が妨げられてしまいます。
5. 新メンバーの早期離職やハイパフォーマーの離職が相次ぐ
離職率の上昇も100人の壁でよく見られる事象です。多くは、前述の採用要件の緩和や育成の不足から始まります。
既存社員による新メンバーを歓迎しない態度や仕事を教えない態度は、新メンバーのオンボーディングが遅れ、パフォーマンスが上がりづらくなる要因となります。新メンバーの中には、せっかく転職してきたのに、歓迎もされなければ育成もしてもらえないとなると、早期に損切りをして新たな環境を求める人も出てきます。その結果、早期退職につながってしまうのです。
早期退職が連続すると、既存社員には「どうせ辞めるなら育てたくない」という考えが芽生え、さらに育成が行われず、いくら採用しても新メンバーの定着につながらないという負のサイクルに陥ります。さらに悪いケースでは、「採用原資に予算を使わず、自分たちに還元してほしい」という意見が出て、ハイパフォーマーの離職も起こりはじめます。こうなると、それまでの業績さえ上げられないといった最悪の状況にもなりかねません。
6. 会社としての意思決定が遅い
100人の壁に直面している会社は、意思決定がよく遅くなっています。
従業員が増えると、部署や部門などの組織数も自然と増えます。組織が増えるということは、ステークホルダーが増加・多様化することであり、合意形成に時間がかかりやすくなってしまうのです。
また、部署間での理解促進も工夫が必要になるでしょう。組織ごとに取り組む課題が分化・高度化することで全体像が見えづらくなり、他部署の業務の重要性を低く見積もってしまったり、自部署の業務を優先してしまったりするためです。個々人の矢印が自分に向いている組織では、協力関係を喪失しやすくなります。
さらに、組織のリソースが増加することで、不必要な課題に取り組んだり、形式的な手続きを増やしたりしてしまうこともあります。
7. 縦割り感が高まり、トップや横とのつながりが薄れている
組織数の増加に伴い、急速に縦割り感が強まるのも100人の壁に見られる事象です。
組織とは、それぞれに優位点を持った個人が集まり、補完し合い、共通する目的の実現に向けて進むためにつくられます。そのため、組織の中で機能を分化・特化することは合理的であり、悪いことではありません。ただし、縦の階層が増えすぎると、現場の考えがトップまで伝わりづらくなるという弊害があります。
また、組織の縦割りが進みすぎると、組織間の横の協力は生まれづらくなります。隣の部署が何のためにどのような業務を行っているのかが分からなくなり、自分たちの業務こそが最も優遇されるべきだと考える人が現れるなど、コミュニケーション不全によるすれ違いや衝突が起きてしまうのです。