1. 事件の概要
本件は、被告(以下「Y社」)の従業員として働いていた原告ら(以下「Xら」)が、それぞれ適応障害等を発症したとして、原告甲野太郎(以下「X1」)は平成29年11月2日から、原告乙山花子(以下「X2」)は同年9月28日から休職していました。
Y社が、X1について平成30年8月2日付、X2について同年6月28日付で休職期間満了による退職扱いをしました(以下「本件各退職扱い」)。
また予備的に、Xらについて令和元年10月30日付で解雇するとの意思表示(以下「本件各解雇」)をしたため、Xらは、Y社に対して本件各退職扱いおよび本件各解雇がいずれも無効であると主張した事案です。
今回はさまざまな争点から、就業規則の記載ミスと休職期間満了による退職について取り上げます。
(1)当事者等
Y社は、京都市において、鮮魚等の卸売業を展開する有限会社です。
X1は、平成16年4月、Y社との間で期間の定めのない雇用契約を締結し、A市場内のY社店舗において勤務していた者です。
X2は、平成21年11月、Y社との間で期間の定めのない雇用契約を締結し、A市場内のY社店舗においてX1の指導の下で勤務していた者です。
(2)Y社の就業規則
Y社の平成20年1月1日施行の就業規則(以下「本件就業規則」)には、休職、復職、退職および解雇に関して、以下の定めがあります。
(休職事由)
- 第17条従業員が次の各号に該当した場合は休職を命ずる。
- 1業務上の傷病により欠勤し3ヵ月を経過しても治癒しないとき(療養休職)。
- 2~5(略)
- 6その他特別の事情があり、会社が休職を相当と認めたとき(特別休職)。
(休職期間)
- 第18条前条の規定による休職期間は次のとおりとする。
- 1前条第1号の場合 6ヵ月
- 2~5(略)
(復職)
- 第21条従業員は、休職期間満了前に休職事由が消滅した場合は、会社の指定する医師の診断書または事由消滅に関する証明書を添付して書面で復職願いを提出しなければならない。
- 2会社は復職可能と認めた場合、復職を命ずる。
- 3(略)
(解雇)
- 第23条従業員が次の各号の1に該当する場合は、30日前に予告するかまたは労働基準法第12条に規定する平均賃金の30日分を支給して解雇する。ただし、日雇いの者で引き続き1ヵ月を超えて試用されない者および試用期間中者で入社後14日経過していない者は、平均賃金を支給せず即時解雇する。
- 1~2(略)
- 3能力勤務成績著しく劣り、または職務に怠慢なとき。
- 4会社の経営方針と相容れない言動をし、または会社に協力しないとき。
- 5(略)
- 6正当な理由なく業務上の人事異動、出向、派遣を拒否したとき。
- 7~8(略)
- 9その他前各号に準ずる事由があるとき。
(退職)
- 第27条従業員が次の各号の一に該当するに至ったときは、その日を退職の日として身分を失う。
- 1~5(略)
- 6休職期間が満了したが休職事由が消滅せず復職できないとき。
- 7(略)
(懲戒解雇)
- 第63条従業員が次の各号の一に該当する場合は、原則として懲戒解雇の処分を行う。ただし情状により前条の処分を適用することがある。
- 1正当な理由がないのに、所属の変更、職種の変更等の命令を拒否したとき。
- 2(略)
- 3服務規律および安全衛生上の遵守事項を守らず、その情状が特に重いとき。
- 4(略)
- 5会社の承認なく、在籍中に他に就職したとき。
- 6~11(略)
(3)Y社による休職期間満了を理由とする本件各退職扱い
X1は、平成29年11月2日から、適応障害等の傷病名でY社を休職していました。
X2は、平成29年9月28日から、適応障害の傷病名でY社を休職していました。
本件訴訟において、Xらは、Xらの上記各休職の事由について、「業務上の傷病」であるとは主張しておらず、「業務外の傷病」として取り扱われることについて当事者間に争いはありません。
Y社は、令和元年10月9日の本件第1回弁論準備手続期日において、「Xらの休職事由は本件就業規則17条1号に該当し、その後、休職期間が満了したが休職事由が消滅せず復職できなかったため、Xらが休職期間満了日を退職日として従業員の身分を失った」として、同規則27条6号に基づき、X1については平成30年8月2日付で、X2については同年6月28日付で、それぞれ退職扱いとするとの主張をしました。
Y社は、令和元年10月25日、Xらについて退職手続きをしました。
Y社の主張する休職期間満了日において、Xらの傷病は治癒しておらず、いずれも復職できる状態ではありませんでした。