4つのこだわり機能
自分たちでゼロから開発するからこそ、機能を作り込めたのも内製TMSのポイントだ。佐久間氏はP/O-Karteの機能について、4つのこだわりを紹介した。
1つ目は「社員自身によるデータ入力がほぼ不要」である点。TMS導入の課題としてよく耳にするのが、データの入力が持続しないことだ。P/O-Karteは一般社員が自分自身について入力する項目はほぼなく、他システムに入力のあるキャリア意向情報は統合データベースを通じて自動連携する。
「この背景には、LINEが比較的ジョブ型に近い組織運営を行っており、社命での異動が少なかったためスキル把握のニーズが低かったこともあります。入力機能にこだわらずに開発できたのは内製でよかったポイントでした」(佐久間氏)
2つ目は「柔軟な権限付与」だ。「権限の設定は非常に難しく、何度も設計し直し、開発を重ねた部分」と佐久間氏。結果的に、豊富な機能が実装されたという。
人事向けには、担当や職位によって閲覧できるデータ種別を制限しながら、比較的幅広く組織のデータを見られるように設計。一方で、人事組織に所属する者同士のデータまでは見えてしまわないように権限を制限していた。
また、現場の役職者向けには、配下のメンバーの個人データが閲覧できるように設計しただけでなく、現場からの要望に応えて、「直接の配下ではないが実態としてマネジメントしている」というケースにも追加で権限を付与できるようにした。また、社内公募の面接時のために、面接の前後2週間という期限付きで、応募者のデータを面接者が閲覧できる機能の開発も行った。その他にも現場のニーズに合わせた細かい機能を実装したという。
3つ目には「人事による面談のメモ機能」が挙げられた。入力機能は極力減らしつつも、人事と現場の面談記録はTMSに必要な要件だった。というのも、社員と面談する人事メンバーは、労務担当者であったりHRBPであったりと時と場合によって異なる。しかし、社員からすれば同じ人事なので、担当者間で面談の内容を共有できないと「前はこう言っていたのに」という齟齬が生まれかねない。
「人事として面談情報の履歴管理は課題でした」と佐久間氏。プライバシーの観点で広く共有はできないが、ファイルを個人のデスクトップに閉じてしまっては認識が共有できない。そこで、P/O-Karteでは機微度に応じて閲覧者の制限を複数段階に設けたほか、メモ1件ごとに関係者を個別に指定して閲覧許可を与えられる機能も実装された。
4つ目に「社員の変化を捉えてマネジメントに使いやすい表示」にもこだわったという。報酬情報を時系列でグラフィカルに表示したり、360度評価の結果を相対的に解釈しやすいように、平均との差分も分かる棒グラフで表示したりといった機能が備わっていた。
これだけこだわった機能を実装したP/O-Karteだが、追加機能の開発や、運用体制はどのようになっていたのか。
人事組織の中で佐久間氏が取りまとめ役となり、開発の優先順位付けをしていた。仕様策定段階でデータアナリストの意見を反映。社内IT組織も密接に関わり、プロジェクトの初期段階でリリースの際のルール整備も行った。また、慎重な扱いが必要になる人事の機微データは、社外SIerが触れないため、データの投入や新機能リリース時の動作検証などは人事側が担っていた。
簡単ではないプロジェクトだったが、社内IT組織の協力に大いに助けられて、運用できたという。
「統合データベースと3つの出し先を同時に、4~5人の開発メンバーで作っていたので、年単位のプロジェクトでした。社内IT組織と社外SIerの能力の高さと積極性に助けられました。システム開発の経験のない私のアイデアには考慮漏れも多かったので、『それをやるとこういう問題が出てきますよ。もっとこうしたほうがベターです』と意見してくれるメンバーだったので助かりました」(佐久間氏)
一方で課題に感じていたのは、取りまとめ役である佐久間氏の視点で、開発する機能を判断していたこと。「私が見たいデータや、欲しい機能から順につくれるのはありがたいことでしたが、『他の人事メンバーや役職者と認識がずれてはいないだろうか』という悩みは尽きませんでした」と振り返った。