日本企業の強さを支える中間管理職
まず小林氏は、これまで日本企業の成長を支えてきた組織の構造と、管理職の重要性を解説した。
「日本企業の経営的な特徴として、『水平的コーディネーション』の強さが挙げられます。部署を横断した現場間の横のつながりや、個々人が複数の組織を渡り歩くジョブローテーションを通して、疑似共同体的に集合知を練り上げる組織構造が、ものづくりを中心とする日本企業が成長してきた要因でした。そしてその成長の源泉が、現場をつかさどる中間管理職です」(小林氏)
現場がプロセスイノベーションを回し、経営も現場に期待し続けるという構造が日本企業の特徴であり強みであった。しかし今は、管理職への期待はそのままに、彼らの負荷が膨らんで“罰ゲーム化”している。
管理職を襲う「ないない尽くし」
そもそもなぜ、管理職が罰ゲーム化しているといわれるのか。小林氏は調査結果を引き、多くの現場で「業務量が増えた」「部下をうまく育てられない」といった課題を感じている管理職が極めて多いと述べる。そして、休めない・学べない状況に陥った管理職は、イノベーションを生み出せず、また部下も育てられないという「ないない尽くし」のスパイラルに陥り、組織的な水平的コーディネーションは弱体化する。この構図が、管理職の負担感が強まる要因であると指摘した。
さらにひも解くと、管理職の負担感は心理的なものと業務的なものに分けられる。心理的な負担としては、組織外や社外とのトラブルや部下の評価にハラスメントへの対処など、対人的なハレーションによるものが代表例だ。
一方、業務量の負担は、部下の手が回らない業務のカバーやプロジェクトの進捗管理などが該当する。最近では1on1を導入する企業も多いが、マネジメントするメンバーが増えるほどに上司のスケジュールが埋まってしまう。
「管理職の負担感を分解すると多くの要素がありますが、まずは部下をマネジメントする困難が大きなものでしょう。メンタルヘルスの重要性が高まる中で、メンバーと向き合う必要がありながら、世代間ギャップによって意思疎通に悩む管理職は多く見受けられます。
さらに、これまでは人材の定着率が高かった大手企業において、若手が流出するケースが増えています。部下の育成がままならない中で有望な若手から退職してしまうことも、管理職の負担感を高めているのです」(小林氏)
「二刀流」の管理職が増えた
ただこうした要素の多くは、古くから管理職が向き合ってきたものだ。それにもかかわらず、なぜいま、管理職の負荷が増えているのだろうか。小林氏は外部要因と内部要因の2つに分けて分析する。
「まず、外部要因としてここ30年ほどの人事トレンドや経営環境の変化を追うと、管理職の負荷を高めるものしかないことがよく分かります。代表的なマクロトレンドが、経済の長期停滞と人手不足です」(小林氏)
たとえば、人件費削減の観点で、またはより少ない人員で高い成果を生みだすため、管理職のポストを縮小し続けている企業は多い。その結果、管理職のほとんどは、売り上げのノルマや顧客対応といった業務を抱えながらマネジメントもするという、プレイングマネジャー化が進んでいる。これまでであれば、マネジメントに集中できる環境があったのに対し、近年の管理職はプレイヤーとしても成果を求められているのだ。
加えて、チームの労働時間の管理やワークライフバランスの尊重、多様性のあるメンバーのマネジメントといった、時代の変化に合わせた新たなテーマもどんどん生まれている。
なかでも働き方改革は、皮肉にも管理職の負荷を大きく高めている要因だと小林氏は指摘する。