スピーカー
森 康真(もり やすなお)氏
株式会社ギブリー
執行役員
人事部管掌 兼 育成ソリューション事業部 シニアプリンシパル
北海道大学工学部情報工学科卒、同大学院情報科学研究科修士課程修了。SAPジャパン株式会社、株式会社野村総合研究所を経て株式会社ワークスアプリケーションズに入社しエンジニア採用責任者としてジョブ型採用を確立。その後、株式会社ギブリーに参画し、現在は同社の執行役員として、人事部管掌と育成ソリューション事業部のシニアプリンシパルを務める。
新卒を即戦力に——調査結果から見る育成の捉え方
ギブリーでは同社が運営するエンジニア・人事向けオウンドメディア「Agile HR magazine」において、人材育成に関する調査を実施した。まずはその回答をもとに森氏は、DX人材育成における現状と課題について言及した。ちなみに調査の回答者が所属するのは、製造業・メーカーを中心とした大手企業が過半数。回答者の職種は、人事や情シス、経営企画などコーポレート関連が大半を占めている。
はじめにDX推進全般について。「組織のDX化の推進において今後注力していきたい人事施策は?」という質問で目立ったのは、「中途社員の採用」(45.33%)や「既存従業員のリスキリング(学習環境提供・資格取得支援)」(35.33%)の回答率の高さである。とはいえ、昨年度と比較するとどちらも減少しており、国の助成金を使って何かしらの対策を施した企業も多いのではないか。「『新卒の職種別採用(即戦力の採用)』がぐんと伸びていることからも、中途採用が思うように進まない分、新卒を育成することで、DX人材が不足している穴を埋めようと考えている傾向が見て取れる」と森氏は述べた。
次に、新入社員研修についてはどうか。「2024年度の新卒社員のデジタル(IT/DX)スキルレベル・経験者の比率」を聞いたところ、従業員規模にかかわらず、「ほぼ全員が未経験」と回答した企業が半数を占めることが分かった。100名以下のスタートアップで「ほぼ全員が経験者」と回答している企業が見られるが、「これはごく一部の例外である」と森氏は強調する。
「コンピュータサイエンスを専攻している学生は年間2万人程度といわれ、少子化も相まって奪い合いになっている。企業規模が大きくなればなるほど、採用人数を満たすためには、未経験者を多くとらなければならない状態が近年ずっと続いている」(森氏)
さらに、「新入社員研修における課題や悩み」について聞いたところ、最も多かったのは「カリキュラムの更新(新領域への対応・情報のアップデート」(38.00%)。次点で「受講生のスキル差への対応」(31.33%)となっている。
「ずっと同じ研修カリキュラムを微修正しながら使い続けている企業が非常に多い。新領域のカリキュラムを追加するには、準備や講師の確保が大変だからだ」(森氏)
また、「2024年度の新卒研修のデジタル(IT/DX)領域の実施」については、知識習得レベルで専門職種に求められる領域を網羅している企業が30%程度いることが分かった。たとえば「データ・AI活用(AI活用戦略・データ戦略・評価)」について、知識習得レベルは21.19%、さらにその上の業務活用レベルになると7.95%となっている。
生成AI領域を新入社員研修で「実施している」と回答した企業は、昨年度に比べると大幅に増えている。「中にはRAG開発やファインチューニング、LLMOpsといった専門的な領域まで踏み込んでいる企業も出てきており、リテラシーレベルにとどまる企業との二極化が進んでいる」と森氏は語る。
他にも、約70%の企業が「生成AI技術の台頭により社員に求められるデジタルスキル要件は変化している」と回答した一方、「実際にどのくらいデジタルスキルを習得できているか」を問うたところ、習得に手応えを感じている企業は約25%にとどまっていることも分かっている。具体的に求めるスキルとしては、「顧客課題の発見と解決・デザイン思考などビジネスアーキテクト領域」が相対的に高く出た。
「生成AIは今後さらにさまざまな領域に入り込んでいく。そうなれば、既存システムからのリプレイスといった限定的なものではなく、戦略レベルでビジネス変革が求められることを予期されているのだろう」(森氏)