LINEが内製したTMS「P/O-Karte」とは?
LINEが開発したTMSは、従業員個人のデータを閲覧する「P-Karte」と、チームなどの組織のデータを見る「O-Karte」の2種類。現場の役職者は自分の配下のメンバーの情報を閲覧でき、人事は全社のデータを閲覧できるシステムだ。また、システム管理者であった佐久間氏は、データを取り込むためのファイルアップロードや、閲覧権限の管理などを行っていた。
佐久間氏は、P-Karteを例にシステムの画面イメージを共有した。
「画面のように、メンバーの名前で検索をかけるとその人の顔写真や所属先を閲覧できます。真ん中がタイムラインのようになっていて、時系列で360度評価の結果や勤怠のデータを見ることが可能です。一見すると、サードパーティーのTMSと変わらない一般的な機能を備えたシステムです」(佐久間氏)
LINEがTMSの内製開発に着手したのは2017年。ヤフーと合併する前の当時は、毎月何十人も入社する組織の拡大期であり、人事は採用・オンボーディング業務に追われていた。また、人事の定期発令の回数はなんと年24回。組織図も年24回書き換わりつづけるので、「作成した組織のデータが、2週間で最新とはいえなくなる」という状況だった。
人事部が目の前の課題に追われ、長期的なシステムの計画を立てるのは難しい状況の中、佐久間氏が入社。「人事データの分析をやりたい」という思いがあった佐久間氏は、新人の立場でゼロから課題を捉えられたのはよかったと振り返る。
ここでポイントなのが、「TMSを導入する」以前に、「人事データを利活用する」という目的があったということだ。「TMSを導入したいという声は当時はほとんど聞きませんでした。それよりも、人事が社員と面談する際に従業員の背景情報が分かったり、評価履歴を簡単に閲覧できたりするシステムをつくれないかと、社内IT部門や社外SIerとディスカッションするうちに、こういう形がよいのではというシステムの全体像が見えてきました」と佐久間氏。
システム全体の仕組みは次図のとおりだ。複数の人事系のシステム(左)から、HR Data Lakeと呼ばれる統合データプラットフォーム(中央)にデータを集約する。そこから3つの出し先に分けて利用していく(右)という構造である。そのデータの出し先の1つが右上のP-Karte・O-Karte、つまりTMSだった。
「データ活用という探索的な取り組みだったので、そもそもTMSの構築がミッションというわけではなかった。また、私自身も人事データを活用することで、どんな価値を出せるのか見えてはいませんでした。そこで当時の問題意識に沿って、まず3つのアウトプット先を用意しましょうという方向性になったのです」(佐久間氏)
こうした構造で開発に取り組んだことで、内製のいくつかの利点が見えてきた。1つは、使えそうなデータや重要なデータから優先的に着手することで、全部のデータがそろっていなくても活用を始められること。たとえば、評価データやエンゲージメントサーベイといった情報は利用頻度が高い。こうした情報から統合データベースに取り込み、スモールスタートで活用を始められるのは内製ならではだ。
また、「システム全体のコストメリットもありました」と佐久間氏。人的資本開示の流れなどを受けて人事データ利活用の機運は高まっている。しかし、統合データベースを持たずに人事データを活用しようとすると、上図左のように分散したデータのまま扱うことになり手間がかかる。
「統合データベースの構築・運用にもコストがかかるため、目的がデータ分析だけでは、コストを正当化しづらい側面があります。しかし、P/O-Karteの構築という目的が併せてあったため、そこをカバーしてくれました」(佐久間氏)