社員の創造性を解放する「デザイン能力」
前回は、企業の産業競争力を向上させる新たな経営観である「デザイン経営」と、デザイン経営の実現に欠かせない「高度デザイン人材」について考えることで、デザイン人材を育成し、社員の誰もがそれぞれの創造性(クリエイティビティ)を発揮できる組織文化をデザインすることが、経営レベルでこれからのHRが担うべき重要な役割だということを論じました。
では、デザイン人材を育成するために、社員のどのような能力を伸ばしていけばよいのでしょうか。創造性を発揮する人材が持つ能力とは何かを考えるうえで、本コラムではデザイン研究者のエツィオ・マンズィーニが自著『日々の政治 : ソーシャルイノベーションをもたらすデザイン文化』(2020年、ビー・エヌ・エヌ新社)の中で提唱する「デザイン能力(デザインケイパビリティ)」の考え方を参考にしたいと思います。
マンズィーニは、人間の思考モードには「慣習モード」と「デザインモード」の2種類があると説明します。既存の習慣や規範に従って無意識的に行動する状態を指す慣習モードに対し、デザインモードは問題意識を持ち批判的に思考しながら、新たな解決策を探求していく状態を指します(図1)。

そして、創造性を発揮するためには「慣習モード」から脱却し、「デザインモード」 へと意識的に切り替えることが重要であることをマンズィーニは提言しているのです。さらにマンズィーニは、デザインモードは誰にでも備わっている潜在能力(ケイパビリティ)であることにも言及しています。