なぜ後継者育成につまずくのか
経営環境は、この10年で大きく変化しました。市場の不確実性、DXの進展、価値観の多様化、ダイバーシティ推進などが進み、少子化により人材確保も難しくなっています。さらにSNSの普及によって、経営者の発言や姿勢は社内外から短期的な視点で評価されるようになりました。
後継者育成が進まないのはこうした外的な要因のほか、本人の経験・能力による要因が大きく分けて3つあります。その対策と合わせて紹介します。
(1)役割転換に必要な能力の違い
多くの後継者候補は、優秀なプレイヤーやマネージャーとして成果を上げてきていますが、経営者に求められる役割はまったく異なります。経営者には、長期的視点で組織全体を設計し、環境変化に対応しながら組織文化を守り発展させる力が必要です。
しかし、現場での成功体験や短期成果のマネジメントに慣れた人材は、この視点や経験を持たないまま昇格しがちです。その結果、暗黙知や非公式な意思決定の流れを理解しないまま改革を進め、現場の信頼を失ったり、組織風土に反する方針で反発を招いたりすることがあります。
➡対策後継者候補を早期から「経営者の椅子」に近づける機会を意図的につくる
【例】新規事業の立ち上げや中長期計画の策定など、全社視点で判断が必要なプロジェクトの担当
(2)短期的視点の優先
多くの企業では、日々の業務や四半期ごとの目標達成が優先され、後継者候補に長期的な挑戦や学びの機会が与えられていません。特に、短期成果を重視する組織風土では、候補者も短期的な成果獲得に集中しやすくなります。
その結果、将来の市場変化や事業転換に備える戦略的思考や、変化に耐えられる組織づくりの経験を積みにくくなります。この環境では、「時間軸を長くとる力」や「未来のために今を犠牲にする決断力」が育ちません。
➡対策評価制度に“未来を見る物差し”を加える
【例】短期KPI(売上や利益)だけでなく、3〜5年後の成長に直結する指標を明確に設定する。
(3)組織文化との適合不足
これは“自社らしいリーダーシップ”という意味でも欠かせない視点です。経営者は戦略を描くだけでなく、組織文化や価値観を体現し、社員との信頼関係を築く象徴的な存在です。候補者が組織文化を理解せず、日々の行動や意思決定で体現できない場合、現場に方針が浸透せず、一体感や求心力を失います。
特に外部から招いた人材などは、文化的背景や非公式な意思決定の流れを理解していないことで摩擦が生じやすくなります。これらは数値やスキル評価では見えにくく、経営陣も見落としがちです。
➡対策組織文化を“机上”ではなく“現場”で体感させる
【例】候補者を早期から経営会議や重要プロジェクトのキックオフに同席させ、意思決定の背景や会話のニュアンスに触れさせる。