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日本企業はスキルベース組織を導入すべきか?「日本型スキルベース」のススメ | 第6回

スキルベースの海外事例―企業も国も、スキルベースの世界へ急速に移行中

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スキルベース社会の実現に向けて——海外事例

シンガポール:Skills Future Singapore

 シンガポールでは、2015年から「Skills Future Singapore」と呼ばれる政府主導のプロジェクトを開始。この背景として、近年のグローバル化とテクノロジーの進化によりスキルの陳腐化が進展していることや少子高齢化による労働力不足、個人のスキルアップへのニーズの高まりなどがシンガポール政府から表明されている。同じ課題で悩みを抱える先進諸国にとって非常に参考となる事例だろう。同国では、デジタル、グリーン(環境)、ケア(医療)の3本柱を成長産業として位置づけ、各産業において身に付けるべきスキルをプログラムとして提供している。

 個人向けには、ポータルサイト(My Skills Future)が提供されており、その機能の1つであるSkills Passportではスキルや資格を蓄積・可視化して、公的証明として利用できる。また、スキル分析機能により希望する産業・職種との適合性を確認することも可能だ。就職先紹介機能のMy Careers Futureと連動して、企業が求めるスキルとのマッチング度合いが可視化される機能もある。さらに、資格取得に役立つ研修コースへの案内や公的助成金の申請も可能。生涯学習の機能まである。まさに至れり尽くせりの機能を提供している。

 また政府は、個人向けの支援として、25歳以上の国民全員に1000シンガポールドル(約11万円)、40歳以上のミドル層に対しては最大4000シンガポールドル(約44万円)のクレジットを付与して、個人のリスキリングを後押ししている。なおかつ、これらのクレジットには有効期限があり、早く利用しないとその権利が消失してしまう仕組みになっている。

 企業向けの支援としては、リスキリングに熱心な中小企業に対して最大1万シンガポールドル(約110万円)を提供し、従業員のリスキリング費用の最大90%を補助がある。また、従業員やインターン学生に対するスキル分析などの機能も提供している。

 このプロジェクトは政府だけでなく民間企業や大学とも深く連携しており、政府主導による産官学連携のプロジェクトとして、日本としても見習うべき点が多い事例だ。

米国:CompTIA

 米国では、IT資格およびリサーチ情報を提供しているCompTIA社が、IT関連資格の開発・認証や大規模な統計情報を公開している。このCompTIA社は設立当初は公的なIT業界団体であったが、2024年に認証・トレーニング事業が民間企業へ移行しており、米国の取り組みはこのような業界団体(民間企業)をうまく利用している点が特徴だ。

 同社の「IT Career Tools」というサービスでは、官民の労働市場のデータを用いて、職種ごとの年収・求人数・雇用成長率に加えて、経験やキャリアパスモデルから取得すべき資格やスキルを可視化しており、キャリア形成に必要な情報に誰でもアクセスできる開放的な情報基盤を提供している。

 また同社では、スキル標準化のノウハウを活かして、IT業界各社と協議のうえ、IT業務で必要とされるスキルの標準化や評価指標の開発を進めている。米国では、セキュリティなど特定分野を除き、政府がスキル標準を定めるのではなく民間企業の統計・分析からスキルタクソノミーや資格などが自律的に発展してきた経緯であり、CompTIA社は現在その一翼を担っている。

 こうした各種情報が労働市場に提供されていることが、情報の非対称性が顕著な日本の労働市場とは対照的であり、日本国として学ぶべき点が多いと考えられる。

カナダ:Skills Passport

 カナダでは、カナダ政府とSkyHive社が共同して「Skills Passport」と呼ばれる機能を国民に提供している。これは新型コロナによる大量失業を背景に生まれたものであり、失業者に対して無償の学習・就労支援を提供することが目的だ。

 Skills Passportでは、AI(量子労働分析手法)を活用して企業と求人者のマッチングを行うとともに、地域需要の高いスキルと失業者のスキルの相関から取得すべきスキルを示してリスキリング・プログラムの推奨から就労支援まで行うなど、一貫した機能を備えている。

 Skills Passportは、政府・企業・個人が三方よしとなるような機能が搭載されていることに特徴がある。政府や企業(人材派遣業者、研修ベンダーなど)向けには求人・給与などのデータやスキルギャップのマクロ的な情報など労働市場の現況の可視化を提供し、個人(求職者)向けには保有スキルの可視化やキャリアパス、マッチした求人や研修コースを提示している。

 また、これらはSkyHive社というスキルテック企業の技術力とノウハウに頼っていることにも特徴がある。これは特定企業への依存によるリスクがある反面、日進月歩で技術革新が進む現代では、迅速さや機動性の観点からメリットも大きいと考えられる。

日本への導入示唆と本連載のまとめ

 以上、海外におけるスキルベース導入を概観してきた。一方、日本ではどうであろうか。

 まずスキルベース組織、つまり日本企業への導入は、すでにいくつかの企業が導入を検討し、中には準備段階の企業もあると聞く。それゆえ、日本でも数年以内に数社の事例が登場すると思われるので、ぜひウォッチしていきたい。

 次にスキルベース社会、つまり国家全体への導入であるが、これは前回の記事「“世界一学ばない国”は変われるか?「スキルベース社会」の実現で、日本も自ら人生と学習を設計する時代へ」でも述べたとおり、すでに経済産業省およびIPA(情報処理推進機構)の主導でスキル基盤の開発が始まっており、そのリリースが待たれるところである。政府主導という点で日本はシンガポールをベンチマークすべきであり、今後も同国の運用形態や課題などを綿密に調査して日本への示唆とすべきであろう。

 さて、本連載では、全6回にわたりスキルベースについて論じてきた。第1回のスキルの収集・可視化から始まり、第2回のスキルベースと人材育成、第3回のスキルベースと労働市場、第4回のスキルベースと雇用、そして第5回のスキルベース社会の実現と、読者の皆さんをスキルベースの世界へと誘う役割を果たしてきた。その際、ただ単にスキルベースの原則論を述べるだけでなく、「日本ならでは」の視点からさまざまに論じてきた。

 筆者としては、スキルベースが日本経済と日本企業の閉塞感を打破するドライバーの1つになってほしいと期待しているが、実際どうなるかは神のみぞ知る。今後、皆さんといっしょに注意深く見守っていきたい。

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この記事の著者

角田 仁(ツノダ ヒトシ)

1989年に東京海上火災保険に入社。主にIT部門においてIT戦略の企画業務を担当する。2015年からは東京海上のIT企画部参与(部長)および東京海上日動システムズ執行役員。2019年、博士号取得を機に30年間務めた東京海上を退職して大学教員へ転じ、名古屋経済大学教授や千葉工業大学教授を歴任した。現在...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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