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2025年7月29日(火)@オンライン

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労働基準法大改正 | 本質と論点、求められる企業の対応

労働基準法大改正 解説【後編】——20以上の論点が提供する選択肢と求められる人材戦略

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【ポイント2】労働時間法制の見直し——時間の質的転換と健康確保

 第2のポイントである「労働時間法制の見直し」は、企業の時間活用の戦略性を高めつつ、健康確保を両立させる制度群です。

「労基法大改正 戦略レポート」(iU組織研究機構 松井勇策)より
労基法大改正 戦略レポート」(iU組織研究機構 松井勇策)より
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 まず、実務的にも対外的にも影響が大きいのが「企業による労働時間情報開示」です。残業時間の開示が義務化されると、長時間労働の是正だけでなく、採用競争力や投資家評価にも直結します。重要なのは、開示するデータをどう整備するかだけでなく、そのデータをどう説明するかということではないでしょうか。削減した時間を再投資したこと(自己学習、チーム改善、顧客接点、新規事業開発など)とその成果を説明することで、働き方が人的資本経営の人材戦略と一体的なものとして、経営戦略と一体化することになります。また、労働時間についてITシステムでダッシュボード化し、45時間超の割合や勤務間休息の確保率を可視化することで、改善をしていく基盤を整えることも重要なことでしょう。

 そのほか、時間の使い方そのものを柔軟にする制度として検討されているのが「フレックスタイム制の改善」です。従来は全日程一律にフレックスタイム制を適用するか、全日程固定勤務の2択でしたが、改正により特定日だけを固定的な労働時間制とする運用が認められます。これにより「月曜日は出社して固定勤務、その他の曜日はフレックスタイムで自宅勤務」といった柔軟な設計が可能になり、偶発的な対話を生むオフィス出社と集中作業に適したリモートワークを組み合わせなどが可能になるものと思われます。ただし、どの曜日を固定にするか、チーム間でどう調整するかは、業務の性質と組織の状況に応じた設計が求められます。

 こうした柔軟化と並行して、健康確保の仕組みも強化されます。「勤務間インターバル制度」は終業から次の始業まで一定時間(原則11時間として検討)を確保する仕組みで、すでに努力義務として存在しますが、今回の改正で義務化される方向で議論されています。単にインターバルを確保するだけでなく、その遵守状況をどう把握し、どう改善につなげるかが問われます。また「連続勤務の制限」も導入が検討されており、13日を超える連続勤務を禁止し必ず休日を設けることで、働き方の自由化が過度な労働につながることを防ぎます。

 さらにこの領域には、「法定休日の特定」により休日労働の予見可能性を向上させる施策や、「週44時間特例措置の撤廃」により一部業種に認められていた特例を廃止し、労働時間規制を統一する動きも含まれます。これらはシフト管理や業務配分の見直しを伴う実務対応が求められます。

【ポイント3】労使コミュニケーションの深化――戦略を適正化する対話の仕組み

 第3の領域である「労使コミュニケーションの深化」は、第1・第2の領域で高まる企業の戦略性を適切に牽制し、労使双方にとって納得感のある働き方を実現する基盤です。それゆえに、労使コミュニケーションについては、労働政策審議会などにおいても非常に重視されて議論が行われています。

「労基法大改正 戦略レポート」(iU組織研究機構 松井勇策)より
労基法大改正 戦略レポート」(iU組織研究機構 松井勇策)より
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 中心となるのが「過半数代表制の改善」で、これは働き方について労使で対話する仕組みを強化します。36協定や就業規則の作成・変更を通じて、働き方の具体的な内容・範囲を労使で決定するプロセス・内容が明確化されることになるものと思われます。この法改正により、労働者代表の適正な選出、情報提供義務、活動支援、権利保護が制度化されることが予測され、形式的な手続きではなく実質的な対話が求められます。労働者のニーズを正確に把握し、働き方の選択肢を双方にメリットのある形で設計することが重要です。

 この労使対話の実質化と並行して、企業の説明責任も強化されます。労働基準関係法制研究会報告書には直接記載されていませんが、上場企業が対象となって検討されている「人的資本経営のストーリー強化」「賃金上昇率の開示」は関係が深いものとして列挙しています。

 有価証券報告書における人的資本情報の記載箇所が変更となり、ストーリー性が強く求められるようになりました。これは「多様な働き方の実現 → 優秀人材の獲得と定着 → 個人能力の最大化 → イノベーション創出 → 事業成長 → 企業価値向上」という価値創造ストーリーを構築する必要があることを意味します。また、働き方の柔軟化がどう企業価値につながるのか、そのロジックを明確に示すことも求められます。平均給与の前年比増減率の開示も予定されており、企業が創出した価値を従業員に適切に還元しているかが可視化されます。これらは働き方と処遇を統合的に捉える視点を求めています。

【ポイント4】働き方のIT戦略の実現――データに基づく個別最適化

 第4の領域である「働き方のIT戦略の実現」は、第1・第2の領域で多様化・柔軟化した働き方を1人ひとりのレベルで可視化し、最適化していくデータに基づく労働管理の推進に関するものです。これ自体は法改正の具体的な論点ではないものの、報告書の複数の箇所で言及されている重要な論点です。

「労基法大改正 戦略レポート」(iU組織研究機構 松井勇策)より
労基法大改正 戦略レポート」(iU組織研究機構 松井勇策)より
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 勤怠管理システムの導入は前提条件ですが、今回の改正で求められるのは「人事情報基盤との統合」だと思います。働き方の実態を「見える化」することで、現場の納得感と改善行動を引き出すこともできるでしょう。こうしたIT基盤の整備は、単なるシステム導入にとどまらず、働き方データを戦略的に活用する組織能力の構築を意味します。人事部門と情報システム部門の連携、データ分析スキルを持つ人材の確保、経営層へのデータに基づく提言の仕組み、これらが一体となって初めて、働き方のIT戦略は機能します。

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【中長期課題】さらなる制度転換に向けた議論

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この記事の著者

松井 勇策(マツイ ユウサク)

産学連携シンクタンク iU組織研究機構 代表理事・社労士。情報経営イノベーション専門職大学 客員教授(人的資本経営・雇用政策)。社労士・公認心理師・AIジェネラリスト。
時代に応じた先進的な雇用環境整備について、雇用関係の制度や実務知識、特に国内法や制度への知見を基本として、人的資本経営の推進・AIやICT関係の知見を融合した対...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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