次世代経営者に最も重要な「人間力」をどう育成しているか
電池事業はいま、かつてない環境変化のただ中にある。デジタル・AI革命や各国のエネルギー政策に加え、経済政策、地政学リスク、そして中国・韓国勢との熾烈な競争など、脅威と機会が混在している。三木氏はこの状況を「不確実性がいっそう高まる中」と表現し、だからこそ脅威やリスクを取り込み、しなやかかつレジリエンス(回復力)のある経営が不可欠であると説く。
三木 勝(みき まさる)氏
パナソニック エナジー株式会社 代表取締役 常務執行役員 チーフ・ヒューマン・リソース・オフィサー(CHRO)
1991年松下電器産業(現パナソニック)へ入社。海外部門で国際人事等を経験後、1999年にシンガポールの現地法人に駐在。帰国後にグループ会社の人事責任者、本社人事部門の責任者等を経て、2014年にインド現地法人に役員として2度目の海外駐在。2017年には本社グローバル人事部長も兼務。2021年10月 パナソニック エナジー 取締役 常務執行役員 CHROに就任。2025年6月 代表取締役に就任。
同社が目指すのは、「ミッションドリブン(未来起点)」での経営だ。社会・産業構造の変化を先読みし、ベンチャー企業のような柔軟性とスピード感を持って競争戦略を推進する。そのために最も重要視しているのが、その経営を担う「人」の育成である。
中でも、三木氏が講演で強調したのは、求める経営者像の再定義である。一般的に求められる「経営リテラシー(知見)」や「行動(コンピテンシー)」に加え、三木氏は「人間力(ポテンシャル)」を最重要項目として掲げた。
ここでいう人間力とは、「覚悟」「胆力」そして「人徳」である。三木氏は、「その人がいれば空気が変わる、それぐらいの圧倒的な人徳を経営者は持っているべきだ」と語る。技術や戦略だけでなく、未来の世界を背負う揺るがない覚悟と、周囲を惹きつける徳を備えた人物こそが、次世代のリーダーとして定義されたのである。
では、いかにしてその「人間力」を養うのか。同社が2022年度より役員登用の登竜門として導入したのが、実践的なアサインメントとエグゼクティブコーチング(EC)の掛け合わせだ。
具体的には、候補者をスモールビジネスユニットのようなPL(損益)責任を持つポストに配置し、疑似的な経営の「修羅場」を経験させる。それと同時に、エグゼクティブコーチングを通じて徹底的な「内省」を促す。コーチングは単なるスキルアップの場ではない。三木氏はこれを、自らの行動や思考を映し出す「鏡」として位置付けている。厳しい事業環境の中で決断を下す経験と、コーチとの対話による深い自己対省を往復することで、「経営者としての心のありよう」を確立させる狙いだ。
ただ、この取り組みはまだ道半ばというところで、エグゼクティブコーチングを受けたのは今のところ、役員層4名・経営層10名にとどまっている。今後、さらに拡充・拡大していく。
パナソニック エナジーは、2030年以降を見据え、事業規模の2倍、3倍への拡大を計画している。その実現には、グローバルな視点を持つ経営人材と、競争力の源泉である技術・モノづくりに精通した経営人材の育成が非常に重要だという三木氏。それにしっかり挑戦していくと語った。

