一歩目を踏み出すための「交通整理術」
キャリア自律を促すには、社員が未来を描き、そこに向けて1歩を踏み出す力が欠かせません[1]。人事は次の4点から、「行動しやすい環境」を整備することをお勧めします。
注
[1]: リクルートマネジメントソリューションズ「2040年働き方イメージ調査からの考察 vol.3 働く人々のキャリア自律に向けて」
(1) 学習と挑戦の「時間と空間」の確保
最も大きな壁の1つが「忙しさ」です。人事施策の第1は、キャリアのための「自律的な学び」や「キャリアの挑戦行動」を業務の一部として位置付けることです。
- 学習時間の明示:業務時間内に、キャリア学習やリスキリングのための時間を確保する制度(例:月に〇時間の「自己成長時間」の裁量付与、半期に〇回の研修を受講できるチケットの付与など)を導入します。
- スモールスタートの機会提供:描いたキャリアのための部署異動や大規模なプロジェクト参画が難しくても、社内副業制度、兼務、越境学習プログラムなどを充実させ、「小さな挑戦」ができる機会を増やします。これにより、リスクを最小限に抑えて「1歩」を踏み出す経験を積んでもらいます。
(2)自己理解を支援し、「やれる理由」を見つける
社員が「自分には無理」と諦めるのは、自分の潜在的な強みや経験が、目指すキャリアにどうつながるかを見いだせていないことが原因です。
- キャリアの棚卸しと再解釈:キャリア研修や面談で、これまでの経験(成功・失敗問わず)を深く振り返り、「自分は何を大切にしてきたか」「無意識に使っていた強みは何か」を言語化する支援を行います。
- 「やれる理由」の発見:過去の経験から、目指すキャリアに必要な要素がすでに自分の中にあること、つまり「自分にもできる理由」を発見してもらいます。これにより、未来を「自分とは遠いもの」ではなく、「今の自分を土台に築けるもの」として捉え直すことができます。
(3)ロールモデルによる「バイアスの破壊」
見えないバリアを最も効果的に壊すのは、「自分と似た誰か」がその壁を乗り越えた姿を見せることです。
- 多様なロールモデルの提示:単に昇進した人だけでなく、「育児と両立しながら専門性を深めた人」「非正規から正社員へ、その後管理職になった人」「未経験の部署に異動し成功した人」など、属性やキャリアパスが多様なロールモデルを積極的に社内で共有します。
- キャリア自律のストーリーの共有:成功体験だけでなく、「失敗から何を学んだか」「どうやって困難を乗り越えたか」というストーリーを語ってもらうことで、「自分も頑張ればできるかもしれない」という希望を持てる状態をつくります。
(4)組織文化としての「挑戦の肯定」
制度設計と同じくらい重要なのが、挑戦を肯定し、失敗を許容する文化の醸成です。
- 会社・上司が期待をかけることの重要性:社員が「自分には無理」と感じているとき、会社や上司が「あなたならできる」と本気で期待をかけることが、行動の背中を強く押します。これは、心理学でいうピグマリオン効果[2]にも通じる、組織からの信頼のメッセージです。この期待が、社員に「責任感」だけでなく、「挑戦してみよう」という「未来を思い描き、1歩を踏み出す力」を与えます。
- 失敗の「共有と称賛」:失敗を個人や部署の責任として終わらせず、「学びの機会」として全社で共有し、挑戦そのものを称賛する仕組みを導入します。
注
[2]: 他者からの期待を受け、その期待に応えようと努力することで、実際に能力が向上する心理的効果。

