1. 事件の概要
本件は、被告(以下「Y社」)と労働契約を締結していた原告(以下「X」)が、Y社に対し、Y社による解雇は無効であると主張して、労働契約上の地位確認等を求めた事案です。
(1)当事者等
Xは、昭和57年生まれの男性です。
Y社は、公益財団法人の設立・運営に関する全般的なコンサルティング業を営む株式会社です。
Y社は、公益財団法人の設立を希望する富裕層の顧客(エンド)とコンサルティング契約を締結し、エンドに対し、財団法人の事業設計や組織設計に対する支援、設立や公益認定申請の代理、その後の運営に対する助言等を行っています。
Y社とエンドがコンサルティング契約を締結した場合、エンドはY社にコンサルティング料金を支払い、Y社はエンドを紹介したパートナーに紹介手数料を支払います。
本件当時のY社の従業員数はXを含め12名、うち営業社員は5名であり、Y社代表者が営業の責任者として、日々の営業報告の確認等を行っていました。
Y社の営業社員の業務は、パートナー候補者に接触してY社の事業を説明し、エンドを紹介してもらえる見込みのあるパートナー候補者について、Y社代表者との面談を手配することです。
Y社代表者は、パートナー候補者と面談し、パートナーから紹介を受けたエンドとの接触や交渉を行っていました。
(2)Xの採用
①Y社の求人広告
Xが人材紹介会社を通じて閲覧したY社の求人広告には、職務概要や業務詳細として、超富裕層向けに、公益財団法人の設立や文化事業に関連するコンサルテーション事業を行っていること、公益財団法人設立を必要とする超富裕層に向けたコンサルティングセールスを任せること、超富裕層への直接的アプローチは難しいため、超富裕層を紹介する者を開拓し、公益財団法人設立につなげていくこと等が記載されていました。
また、同求人広告には、応募要件の必須条件として、プライベートバンク、ウェルスマネジメント、資産運用、大手または外資系証券会社、大手商社および相続対策・事業承継の領域における、富裕層向けの折衝経験を有する者、富裕層の人脈を持ちかつ人脈構築が得意な業績上位者との記載がありました。
また、同求人広告には、基本年収が1000万円と記載されていましたが、月額給与の記載はありませんでした。
②Xの採用
XがY社に提出した履歴書には、志望動機として、商社、証券会社、アセットマネジメント、ヘッジファンドと渡り歩く中、一貫して運用業務に従事し経験とノウハウを積み重ねてきたこと、仕事柄富裕層との接点が多いことなどが記載されていました。
令和5年4月、Y社代表者は、Xの1次面接を行い、Y社の業務内容の概要を説明したうえで、パートナー候補となる知人の有無を質問しました。
これに対し、Xは、「中国人の知人がいる」と回答すると、Y社代表者は、Y社のパンフレットを渡すので同人に渡して反応を見てほしいこと、2次面接の際には、Xとして営業の対象となる可能性のある人物を掲載した名簿を作成し提出するよう求めました。
Xは、1次面接後、上記知人と面談してY社の事業を説明し、その面談内容を、人材紹介会社を通じてY社に連絡しました。
令和5年4月20日、Y社代表者は、Xの2次面接を行い、Xは本件名簿を提出しました。
本件名簿には、約40名の対象者の氏名、分野、所属、役職、特徴が記載され、A、B、Cの優先度が設定されていましたが、Xが実際に面識のある人物は2名のみであり、ほとんどがインターネットを検索して記載した者でした。
2次面接においては、本件名簿の掲載者とXとの結び付きについて、Y社代表者が具体的に質問することはせず、Xも明確に答えることはなく、同日の面接終了後、Y社代表者はXを採用する予定である旨を告げました。
③労働契約の締結
Xは、令和5年4月24日、Y社との間で、業務内容を営業として、以下の内容の労働契約を締結しました。
- 入社日:令和5年5月8日
- 勤務時間:午前10時から午後5時まで(休憩時間:午前12時から午後1時まで)
- 休日:毎週土曜日および日曜日、国民の祝日、夏季・冬季などの会社が定めた日
- 賃金:年額1000万円(年俸契約。ただし月額給与の額については争いがある)
- 賃金締切日・支払日:毎月20日締め切り、25日支払い
- 賞与:夏冬の2回会社、本人の業績によりその都度定める
本件労働契約においては、3ヵ月の試用期間が定められ、試用期間内の解雇事由について以下が定められています。
- 経営上不測の事態発生があったとき
- 業務に適性を欠くと判断したとき
- 第3条3項の解雇事由(精神または身体の支障により、業務に耐えられないと認められたとき、業績不良で業務に適さないと認められたとき、欠勤、遅刻が頻発し、業務を十分に遂行しないとき)が認められたとき
(3)Xの勤務状況
Y社は、本件労働契約締結後、Xに対し求人会社を通じて採用内定通知書を交付しました。
同書には、給与および手当として、月額給与が66万6666円、賞与として年2回100万円と記載されていました。
Xは、令和5年5月10日から対外的な営業活動を開始し、同日以降複数のパートナー候補者の面談を重ね、同年6月2日には1名のパートナー候補者とY社代表者との面談を設定しました。Xは、こうした営業活動を含む日々の業務内容について、業務日誌をY社に提出していました。
Xに対しては、月額基本給を66万6666円と記載した給与明細表が交付され、令和5年の夏季賞与として50万円が支給されました。
Xは、営業先等の関係者に対し、顧客情報やY社のコンサルティング料、紹介料をメールで送信したことがありました。
令和5年7月7日、これに対しY社代表者がXに口頭で注意を行いました。
Y社代表者は、令和5年7月11日、Xの先輩従業員に対し、Xの営業先を変更するよう指導せよとの指示をしました。
同月20日、Xに対するメッセージで、Xの成果が上がらない決定的原因の1つは営業先が違うことであり、Y社が指導している営業先は、経営コンサルタント、社長1人か零細企業の形態、ベンツ車に乗る55歳絡みの富裕層で、特徴は包容力に富み味わい深い人間性、社外重役や超富裕層の取り巻きであるが、Xの営業先は全て指導から外れていること、もう1つの原因はXの人間的魅力の欠如であり、相手と自分を見つめ直してもらいたいこと、を指摘しました。
(4)Xの解雇等
令和5年8月4日、Y社代表者は、Xに対し口頭で、3ヵ月は試用期間であり、営業センスが期待できないので解雇する旨伝えて、Xを解雇する旨の意思表示をしました(以下「本件解雇」)。
同月23日、Y社は、Xに対し、同年8月分の給与として、労働日数11日に相当する基本給36万6666円(社会保険等控除前)を支払い、同月29日、解雇予告手当として66万6666円(社会保険等控除前)を支払いました。
(5)Y社の就業規則
Y社の就業規則には、以下の定めがあります。
(試用期間)
- 第4条新たに採用された従業員には、入社日より3か月の試用期間を設ける。ただし、 会社が必要と認めたときは、6か月を上限として試用期間を延長することがある。
- 2試用期間中又は試用期間満了の際、能力、適性、勤務成績、健康状態、その他の事項につき、引き続き従業員として勤務させることが不適格と認められる者については、その雇用を打ち切ることがある。
(解雇)
第12条
従業員が次の各号の一に該当する場合には、解雇に処することがある。
- 身体又は精神の障害、虚弱等により業務に耐えられないと認められたとき
- 就業状況が著しく不良で就業に適さないと認められたとき
- 事業の縮小その他会社の都合によりやむを得ないとき
- 懲戒解雇に該当する行為のあったとき
- その他やむを得ない事由があるとき

