AIが雇用に与える影響、新しい職種の誕生
生成AI、AIエージェントは効率化、自動化をもたらすことから、雇用を脅かす技術にもなりうる。この懸念に対し、Scardino氏は「表計算ツールが登場したときに『会計士の職がなくなる』といわれたが、実際は正反対になった。会計士は表計算ツールを活用し、より価値の高い仕事をするようになった」と述べ、AIも同様に進展するとの見通しを示した。先のサポートエンジニアを例に取り、「パスワードの変更や設定などに時間を費やしてきたが、これを自動化することで新しく価値のある仕事ができる」と述べた。
AIエージェントがこなしてしまうことから、新規雇用とエントリーレベルの仕事がどうなるのかという懸念について、Scardino氏は「AIネイティブを積極的に雇用している」と述べる。すでに、AIエージェントとの協働を前提に仕事をする世代が労働市場に入りつつある。彼/彼女らはすでに大学でAI活用を学んでおり、むしろ「その新しい役割がどのようなものかを推進している」存在だという。それを促進する仕組みが「リバースメンターシップ」だ。新卒や若手が組織内のさまざまな社員とパートナーを組む取り組みで、「新卒者がもたらすAI活用への意識の高さとデジタルスキルが、組織全体のレベルを引き上げている」と述べた。
新しい職種も生まれているという。倫理AIアーキテクト、プロンプトエンジニア、エージェントマネージャーの管理者(スーパーバイザー)、会話型UIデザインやエージェントデザイナーなど、「6ヵ月前にはなかった全く新しい仕事が生まれている」と明かした。
人事部門でも新しい役割が生まれた。Scardino氏によると、タレントマネジメント担当者は「AIエージェントと人間の協働をサポートする役割」を担うという。AIエージェントをどうオンボードするか、役割を終えたAIエージェントをどうオフボードするか、倫理的な使用と展開をどう管理するか——こうした新たな業務に対応していく必要がある。
AIエージェント時代、HRはこれまでにない方法で貢献できる
HRはこれからどのように進化していくのか。「ここ2年でHRの役割は根本的に変化した」とScardino氏は話す。そのようなこともあり、今年のDreamforceでは23回の歴史で初めて、「CRHOサミット」として人事担当を集めたセッションを設けた。業務が変わる中、組織が変革するためには官僚主義を取り除く必要がある。「HRが率先して変わる必要がある」とScardino氏は述べた。
新たな取り組みとして紹介したのが、「プロダクトマインドセット」だ。人事に関係するサービス(ソフトウェア)を、従業員が使いやすい「製品」として設計し直したのだ。業務上の無駄や手間を排除することで、「我々チームは、人材に関する対話により多くの時間を使えるようになった」という。
具体的には何に時間を使うのか。従業員1人ひとりを深く理解することだ。「誰がどんなスキルを持ち、何に動機づけられ、どんなキャリアを望んでいるのか。これこそが、人事が本来果たすべき戦略的な役割だ」とScardino氏は考えを話す。
切り離せないITとの融合も進んでいる。「HRとITの距離が縮まっている。テクノロジーと人の要素の両方を扱うため、CIO組織も管理するHRリーダーが出てきている」という。
組織体制も変えた。2024年に「労働力イノベーションチーム」を新設し、AIエージェントの倫理的使用を監督するガバナンス評議会を最高デジタル責任者、倫理的・人道的使用オフィス、法務チームとともに運営している。
「HRは、AIエージェントによる変革によって、これまでにない方法で貢献できる大きな機会を得ている」とScardino氏、「AIエージェントと人間のコラボレーションが生む新しい労働力に向けて、HRは前線から率いる義務がある」と続けた。

