人材マネジメントが転換点を迎えている理由——経営アジェンダとしての人材
近年、人的資本経営の重要性が高まる中、人事には従来の制度運用を超えた役割が求められています。市場構造の変化、デジタル技術の進展、そして生成AIの実装により、企業が競争力を維持・強化するために必要な能力は、短いサイクルで更新されるようになりました。過去の成功モデルや既存の人材構成を前提としたままでは、事業変革に対応しきれない状況となっています。
こうした環境下では、「今ある組織を前提に人をどう配置するか」ではなく、「将来の事業を支えるために、どのような組織能力を備えるべきか」という問いから人材を捉え直す必要があります。しかし現実には、事業変化のスピードに対し、人材マネジメントの仕組みや意思決定プロセスが十分に連動しきれていないケースが少なくありません。その結果として顕在化しているのが、人材ミスマッチという課題です。
特に近年は、事業戦略と人材戦略が時間差で検討されること自体がリスクになりつつあります。戦略を描いた後に「では人はどうするか」を考えるのではなく、戦略を検討する段階から、人材の量・質・構成を同時に考える必要性が高まっています。
調査結果に見る、企業が直面する3つの人材ミスマッチ
アビームコンサルティングが実施した「企業内の人材ミスマッチ実態調査」(人事・経営企画部門の管理職500名を対象)からは、日本企業に広く共通する課題が浮き彫りになっています[1]。
注
[1]: 調査結果の詳細については、HRzineのニュース記事「6割の企業で「人材不足」と「過剰」が同時に発生していることが明らかに—アビームコンサルティング調べ」もご覧ください。
まず「量のミスマッチ」です。約9割の企業が人材不足を感じている一方で、約6割の企業では人材過剰も発生しており、61%の企業で人材不足と人材過剰が同時に生じていることが分かりました。特に30代では約7割、40代でも半数の企業で需給のアンバランスが見られ、働き盛り世代の人材が十分に活かされていない実態が明らかになっています。
次に「質のミスマッチ」です。約8割の企業で、職務要件に対して能力が不足している、あるいは能力を十分に発揮しきれていない人材が存在すると回答しています。特に30代・40代では、能力を持ちながらも現在の役割では活かしきれていないケースが多く確認されました。
さらに「報酬のミスマッチ」です。約8割の企業で、成果と報酬が必ずしも一致していない状態が見られます。40代・50代では成果に比して報酬が高い傾向が、30代・40代では逆に報酬が成果を下回る傾向があり、制度と実態の間にギャップが生じていることがうかがえます。
これら3つのミスマッチは、個別に発生しているのではなく、相互に影響し合っています。たとえば、量の不足を補うために即戦力採用を進めた結果、既存人材との役割や処遇のバランスが崩れ、質や報酬のミスマッチを助長するケースが見られます。部分的な対応が別の歪みを生む構造こそが、人材ミスマッチを慢性化させている要因ともいえるでしょう。

