人材ミスマッチを解消する鍵——ケイパビリティという視点
こうした構造的な課題に対して、異動を増やす、制度を部分的に見直すといった対応だけでは十分とはいえません。必要なのは、「どのポストに誰を配置するか」「どのスキルをどれだけ保有しているか」といった静的な人材把握から、「将来の事業戦略を実現するために、企業としてどのような組織能力を獲得・強化していくべきか」という動的な視点への転換です。
本稿でいう「ケイパビリティ」とは、将来の事業戦略を実現するために、企業として獲得・強化すべき組織能力を指します。これは特定の職務やスキルを指すものではなく、事業の方向性に応じて、組織としてどのような価値を生み出し続ける力が必要なのかを示す概念です。
この視点に立つことで、量・質・報酬といった個別のミスマッチを、その場しのぎで是正するのではなく、経営戦略と人材マネジメントを同じ地平で捉え直すことが可能になります。将来の事業構想から逆算して必要なケイパビリティを定義し、その獲得に向けて人材の配置・育成・処遇を設計することで、人材施策は初めて一貫した意味を持ち始めます。
ケイパビリティを起点に考えることで、人材配置は「空いているポストを埋めるためのもの」から、「将来の組織能力を構築するための投資」へと位置付けが変わります。育成は現職適応のためだけでなく、次の事業を担う力を育てるプロセスとなり、処遇も短期的な成果評価だけでなく、中長期的な能力形成と連動して設計されるようになります。
これは人事施策を高度化すること自体が目的なのではありません。経営戦略を実行可能なものにするための基盤として、人材マネジメントを再設計すること。それこそが、ケイパビリティという視点が持つ本質的な意義だといえるでしょう。
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次回は、ケイパビリティという考え方を、従来の人材マネジメントと比較しながら整理します。ジョブ型やスキル型を否定するのではなく、それらを包含したうえで、なぜいまこの視点が求められているのかを明らかにしていきます。

